「人類の進化: 拡散と絶滅の歴史を探る」バーナード・ウッド著

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本書は人類化石研究の第一人者であるバーナード・ウッド氏(ジョージ・ワシントン大学教授)が一般向けに人類の進化を解説する入門書として書いた本の邦訳である。原本は2005年と十年以上前になるが、邦訳時に人類形態進化学者である訳者の馬場悠男氏が注釈と最新研究動向を補足してまとめてある。

著者によると本書の目的は以下の三つだという。

「第一は、人類進化史に関する理解を深めるために、古人類学者たちがどのように仕事をしているかを説明すること。第二は、人類進化史について古人類学者が得た知識を紹介すること。第三は、その知識がいかに不十分かを示すことである。」

第一章で本書の方向性と各章の趣旨について大まかに示されたあと、第二章でプラトン・アリストテレスの人間観からダーウィンの進化論やメンデルの分類学まで一気に人類学前史を走りゲノム解析や人類化石研究の重要性を述べ、ヒトとゴリラとチンパンジーの分類上の関係性まで俯瞰して描く。第三章で具体的に人類化石の調査方法や年代測定など具体的な研究過程を解説、第四章で人類の系統と分類について、種同定方法などを抑えつつ、現在の人類の分類にまつわる研究者間の見解対立を整理する。第五章以降、第八章まで初期猿人、猿人、原人と旧人、新人と各人類について研究史や学説の対立なども含めて詳述されている。最後に加えられた訳者の補論はホモ・フロレシエンシス、アルディピテクス・ラミダスの骨格、ホモ・サピエンスとネアンデルタール人やデニソワ人との交雑、ホモ・ハビリスとホモ・エレクトスとの関係の再評価など原本出版後の新発見の整理である。

日本では猿人、原人、旧人、新人の四分類が広く知られているが、この分類は必ずしも適切な分類であるとは言えない。ウッドは「かもしれない人類」「ほぼ確実に人類」「古代の人類」「我々自身の人類」に整理している。「かもしれない人類」がサヘラントロプス・チャデンシスからアルディピテクス・ラミダスまでの初期猿人、「ほぼ確実に人類」がアウストラロピテクスなどの猿人とホモ・ハビリス、「古代の人類」がホモ・エレクトス以降の原人と旧人、「我々自身の人類」がホモ・サピエンス、いわゆる新人である。

ホモ・ハビリスの扱いについて、訳者の注釈によると、猿人に入れる見解と猿人から原人への移行型とする見解と、原人とする見解とで研究者の間でも分かれており、ウッドは猿人の仲間とする研究者の代表であるという。一方で補足で紹介されている最新の研究成果ではホモ・ハビリスがホモ・エレクトスの広い変異に含まれるとする説が強まっているともいう。このような見解の対立は、ウッド自身も非常に広範囲に描いており、その多様な意見が競い合う様に古人類学研究の最前線の空気が感じられてエキサイティングである。

本書は、過不足ない解説が非常にわかりやすく、かつ、もっと知りたいという知的好奇心をそそる内容になっていて、良質な古人類学の見取り図といえる。

Kousyou

「Call of History ー歴史の呼び声ー」管理者。個人ブログはKousyoublog。英独仏関係史、欧州中世史、近世日本社会史、鎌倉幕府史などに興味があります。

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