「カペー朝―フランス王朝史1 (講談社現代新書)」佐藤賢一 著

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ゲルマン系諸民族の侵攻の中で崩壊した西ローマ帝国はしばしの混乱の後、フランク王国によって再統一され、カール大帝(シャルルマーニュ)の時代に最盛期を迎えた。しかし、それも長くは続かず、その後の度重なる内紛とヴァイキングの侵攻などを経てまず三分割、続けて西フランク王国と東フランク王国とに分裂することになった。東フランク王国は神聖ローマ帝国の成立によって統一的な王権が確立したが、西ローマ帝国は諸侯が乱立する無秩序な群雄割拠の時代となり、王権の弱体化は著しく、ついに987年、カロリング朝王権の断絶に至る。

名ばかりの王として即位することになるのがユーグ・カペーであり、彼から始まる王朝こそ、のちに西フランク王国時代の旧領の大半を版図とすることになるカペー朝であった。カペー朝の成立をもって、西フランク王はユーグ・カペーの称号であったフランキア大公の名を取りフランス王と呼称されることになる。現代へとつながるフランスの原型が生まれた王朝はいかにして続いたのか、歴代十五人のカペー朝フランス王の事績をたどる一冊である。

カペー朝の王というと、圧倒的劣勢の中で強大なアンジュー帝国を制し領土を四倍にまで拡大させた稀代の英傑フィリップ2世尊厳王、南フランスを征服し協調外交によって西欧の国際関係を安定化させ十字軍遠征にも積極的だったルイ9世聖王、最盛期の王として君臨しテンプル騎士団を壊滅させ、ローマ教皇すらその支配下に置こうとしたフィリップ4世端麗王の三人が代表的な君主として挙げられよう。

そんな三人の王の栄光を支える土台が作られたのがカペー朝の堅実すぎる歩みであったことが、本書では描かれている。弱体な草創期、とりあえず何はさておき断絶しないよう、王子が父王の存命中に即位する連立王政を敷き、荒ぶる諸勢力との絶え間ない争いの中で生き残りに四苦八苦しながらささやかな領土の支配力の強化に腐心し、少しずつ領土を拡大し、行政機構を整えて統治能力を徐々に上げていっていた。五代目のルイ6世と六代目のルイ7世は本書でも非常に再評価されている。また、フィリップ2世とルイ9世を繋ぐルイ8世は在位期間こそ短いが王太子時代から父王フィリップ2世を助けた優秀な人物であった。

「信長、秀吉、家康というような、日本史のスターたちと比肩できる名君が、常に王座にいたわけではない。個々の王は我々に親近感を許してくれるほど身近な、しばしば凡庸といえるくらいの人物であり、またそれゆえに業績の高は自ずと限られる。が、たった一代で勝負しなければならない理由はない。その成長は遅々たる亀の歩みであったとしても、血統さえ絶やさなければ何代もかけることで、フランス王家は着実に前進することができたのだ。」(P243-244)

十七世紀、ブルボン朝の時代に欧州に君臨する強大な絶対王政国家フランスへと至る長い道程の第一歩がいかにして標されたのか、王と王を取り巻く人々の愛憎劇と血と策謀渦巻く国家統一の過程を通して知ることができる、手軽で楽しいフランス史入門本の一つである。

続編

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