「流罪の日本史 (ちくま新書)」渡邊 大門 著

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洋の東西を問わず、様々な国や地域で刑罰の一つとして追放刑があった。日本の歴史においても流罪と呼ばれて、保元の乱で敗れ怨霊となった崇徳院、流刑先で一生を終えるかに見えた源頼朝、関ケ原合戦で敗れ八丈島に流され長すぎる後半生を生きた宇喜多秀家・・・などなど様々なドラマを生み出してきた。

本書によれば流罪は「大宝律」「養老律」によって死罪に次ぐ重い刑として定められ、その罪の重さに応じて「近流」「中流」「遠流」に分かれていたという。また流されるだけでなく労役を負わされていたこと、家族も縁座として連帯責任を負って配所にともに行く家族刑としての側面も持っていたことなどが古代の流罪の特徴であった。

鎌倉時代になると「御成敗式目」に悪口、殺人や暴力、文書の偽造、不貞行為、窃盗などの刑罰として流罪が定められているほか、承久の乱での後鳥羽院などをはじめとする政治犯や、法然・親鸞・日蓮ら鎌倉新仏教の僧侶たちも流罪にあった。彼らに共通するのは政治的・社会的影響力の強さで、「影響力のある人物を処分する場合は、一般的に流罪が最高刑であった」(116-117頁)が、天皇は別として「おおむねほとぼりが冷めた頃に帰郷を許すというのが通例だったようだ」(118頁)という。

室町幕府でも鎌倉幕府を受け継いで流罪が定められていたが、法令では「いずれも財産没収をまず挙げながら、それが叶わない場合の流罪を規定」(121-122頁)していたこと、刑罰としてだけではなく、反対者への見せしめとして流罪としたり、佐々木導誉・秀綱親子と妙法院の対立で妙法院を納得させるために形だけ佐々木親子を流罪として(おそらく実施はされなかったと考えられているという)ことにした例などが紹介されて「パフォーマンス的な要素を多分に含むようになった」(156頁)点が指摘される。

以降、戦国時代、安土桃山時代、江戸時代、明治時代と流罪の変遷が多様な実例とともに追われていくが、興味深いのは中世の流罪が案外と自由でのびのびしていることである。源頼朝は伊豆で北条時政・伊東祐親らの監視下に置かれていたがじっと謹慎していたわけではなく、三浦半島まで遊びに行ったり、来客がひっきりなしに訪れていたり、伊東祐親の娘や北条政子と恋愛楽しんだり、あげく、反乱の準備を整えて蜂起までしてしまっていて、辺境ののんびりさがある。これが近世になると頼朝のような有力武将の場合、もはや辺境としての流罪先が存在しなくなって、例えば領地を没収された大名が他の大名家の預かりになったり、高野山などに軟禁されたりと、かなり厳しい監視下に置かれてしまう。九度山に流罪となった真田信繁は時代劇よろしく十勇士と諸国の悪を成敗してまわったりはしなかったのである。

中央から周縁への追放という図式が、監視された不自由へと移行し、近代に入ると流罪にかわって監獄が登場するという刑罰の変容の過程がダイナミックに見て取れてとても興味深い。

以前紹介した川北 稔 著「民衆の大英帝国―近世イギリス社会とアメリカ移民 (岩波現代文庫)」(岩波書店,2008(初出1990))によると、イギリスからアメリカへと渡った人々の少なくない割合で流刑にあった囚人がいる。「社会問題を、できれば植民地に押しだすことで解決しようとする傾向」(川北2008,277頁)があり、植民地時代のアメリカ社会や同じく流刑地とされたオーストラリア社会を変質させあるいは構成する大きな要因となったが、日本の場合にも同様の流刑先の社会変容というのはどのようなものであったか、とても興味がわいた。特に江戸時代に流刑先とされた八丈島、三宅島、新島の社会と近世アメリカ、オーストラリア社会との比較は、閉鎖された島と開放的な大陸という差はかなり大きく本質的と言って良い差異だが、一方、ともに流刑先で労働刑を科されていた類似点もあり、何か面白そうなテーマとなりそう。ちなみに過去記事として「十九世紀オーストラリアの中国人排斥運動と白豪主義国家の誕生」で囚人たちを含む近世近代のオーストラリア社会の変容については紹介した。

とにかく、本書は流罪の実例がとても豊富で読んでいて様々な発見や驚きがあり、流罪にされた人々の悲喜こもごもの人間模様が描かれる。特に不義密通が流罪の要件となっていたこともあって、愛憎劇がいくつも登場するし、敗者たちの野心の果てとでもいうべき劇的な人生の終着点としての流罪のドラマも見える。史料を縦横に渉猟していくことで様々な人生を次々と紹介し、その積み重ねによって厳然たる制度史を浮き彫りにする、とても知的興味をそそられる一冊である。

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Kousyou

「Call of History ー歴史の呼び声ー」管理者。個人ブログはKousyoublog。英独仏関係史、欧州中世史、近世日本社会史、鎌倉幕府史などに興味があります。

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