中世末旅行が始まるぞ!「エーゲ海を渡る花たち 1巻」感想

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連載開始当初に当サイトで紹介した「エーゲ海を渡る花たち」(日之下あかめ 作、COMICメテオ連載)のコミックス第一巻が2019年2月12日、発売されました。毎回連載が楽しみな作品でしたので、早速購入。あらためて本作の魅力を紹介したいと思います。

エーゲ海を渡る花たち

エーゲ海を渡る花たち

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あらすじ

舞台は十五世紀半ば、イタリア北部の都市国家エステ辺境伯フェラーラ候領。オスマン帝国によるコンスタンティノープル陥落直後で、主人公の一人オリハがその影響を受けたことが作中で明かされるので1453年以後ほどないころと思われます。当時のイタリアとフェラーラに関する歴史的背景については前回の記事でまとめたので、詳しくは以下の記事を参照いただければと思いますが、一巻のあとがきでも日之下先生が描かれている通り、丁度イタリアが”奇跡的に”平和な時代が舞台です。

良作の予感「エーゲ海を渡る花たち」少女二人の中世ヨーロッパ旅行漫画開幕!
エーゲ海を渡る花たち | 妹を探すため、ふるさとのクルムへと戻りたいオリハと、その旅に同行したいリーザ……ふたりの旅が今始まる! 15世紀半ばのイタリア・フェラーラにて、世界を旅することを夢見る少女・リーザは、クルム(現クリミア)...

商家ロセッティ家の令嬢ながら旅することを夢見る通称「跳ねる嬢(インペンナータ)」と呼ばれるおてんばなリーザと、クルム(クリミア)からイタリアへと紆余曲折を経てたどり着いた物静かで思慮深そうなスラヴ系少女オリハが出会い、オリハの妹を探してクレタ島へ向かって一緒に旅立つ中世ヨーロッパ地中海旅行記です。

1巻では、出発に難色を示すリーザの姉マリアを説得するために課題をクリアし、商人ロレンツォの協力を得てフェラーラから「アドリア海の女王」ヴェネツィア、そしてアドリア海の対岸バルカン半島の港湾都市スパラトへ、と順調な旅立ちが描かれます。

歴史を旅する

本作の最大の魅力が、読者も一緒に十五世紀の地中海を旅することができるという点でしょう。ガレオン船に乗ってアドリア海に漕ぎ出し、空を舞うフラミンゴの群れに目を輝かせ、ヴェネツィアの様々な国々の人々が行きかう喧騒に紛れ、商取引の知識を身につけて交渉に臨み、当時の都市についてのガイドもついて、それぞれの都市が持つ魅力を肌で感じる。そして歩き疲れて腹が減ったら思いっきり飯を食う。美麗な風景と旨そうな料理・・・本当に旨そうなんだこれが。

ヴェネツィアの「スズキのアクアパッツァ」「ピエトラと豆のサラダ」とかスパラトの「エビのバニーニ」とか作中に登場する料理を当時の製法を再現して実際に食べられるイベントなどやってほしいぐらいですが、アニメ化ぐらいまでされればお店での実食の機会ありますかね・・・あとアドリア海ポー川河口のフラミンゴの飛翔やヴェネツィアの水路、スパラトの夜景などカラーか実写映像で見たいレベルの美しいシーンも作中の至る所にありますのでアニメ化と言わずとも、舞台探訪DVDなども見たいですねぇ。

このように中世ヨーロッパ旅行記であり、文字通りの意味で”歴史を旅する”漫画である点が本作の推しポイントです。中世ヨーロッパ大好きな自分としては実にたまらない。

主人公二人の関係性も、最初の手探りな状態から一巻では徐々に近づいてきて、お互いの良いところやダメなところを少しずつわかりあって、打ち解けつつあるというあたりで、この距離感の丁寧な詰め方も良いです。オリハの、リーザへの扱いが徐々に雑というか保護者目線っぽくなっていくのがにやにやとさせられます。

そしてスパラトで仲間入りした褐色少女テュヴァがよいですね・・・彼女にトルコ風衣装を着ることをお命じになったという「旦那様(未登場)」と時空を超えて握手したい。一巻の続き部分にあたる連載最新回でロレンツォに持ち上げられたときのテュヴァの表情大好き。あと、ヴェネツィアでぶつかったお姉さん、みるからにまた登場の機会がありそうなので、再登場が楽しみです。

一巻をより楽しむ歴史ネタなど

歴史ネタは本記事では控えめにしておくつもりですが、いくつか知っておくとより楽しめそうな小ネタとして、一話でお嬢さん方が物語の写本に色めきだってラサルの新作かしら?と黄色い声を上げていたラサルはアントワーヌ・ド・ラ・サル(” Antoine de La Sale ”,1386~1462)ですね。遍歴の騎士と呼ばれアンジュー公、ブルゴーニュ公、サン=ポル伯などに仕えた、『小姓ジャン・ド・サントレ( “Le Petit Jehan de Saintré” )』などを代表作とする当時著名な物語作家です。ジャンヌ・ダルクと同時代の人になりますが、ちょうどジャンヌが活躍していた時期に、彼は主君アンジュー公ルイ3世に従ってプロヴァンスやイタリア方面に滞在していたので会っていないでしょう。

また、ロレンツォがスパラトで情報収集しているときの会話で出たメフメト2世が内地で負けたので・・・と話しているのはおそらくメフメト2世がハンガリーのフニャディ・ヤーノシュに負けたベオグラードの戦い(1456年)ではないかと思われます。実際、作中の会話通り、メフメト2世は1458年にペロポネソス半島へと進出していくので。そう考えると、彼女たちの平和な旅路は、同時代のハンガリー王国やワラキア公ヴラド3世(在位1448、1456~62、1476~77)を始めとするバルカン諸国が支えているという構図が見えてきて、少し視野が広がるかもしれませんね。

未だアドリア海から出ていない美しい花たちをエーゲ海まで行かせたいので、「リアル事情」(あとがきより)を乗り越えていただけるよう、個人的に購入の上で、このとおり良さを伝える記事も書いて公開することで応援に変えたいと思います。

エーゲ海を渡る花たち

Kousyou

「Call of History ー歴史の呼び声ー」管理者。個人ブログはKousyoublog。英独仏関係史、欧州中世史、近世日本社会史、鎌倉幕府史などに興味があります。

記事更新の参考文献としてほしい歴史書リストを公開しました。もしお送りいただければこのサイトの内容充実に反映させていきたいと思います。

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文庫、新書、一般書、専門書と世界史から日本史までかなりの数リストにしたので、案外、眺めるだけでも楽しめるのではとも思います。

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