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串刺公ヴラド3世の生涯を描く『ヴラド・ドラクラ(1、2巻)』感想

『ヴラド・ドラクラ』(大窪晶与作、ハルタ連載)は吸血鬼・ドラキュラ伯爵のモデルの一人にして「串刺し公」の異名で知られる、最近ではFateシリーズでもお馴染みのワラキア公ヴラド3世(1431~1476年、在位1448,1456~62,1476~77)を主人公にした大河歴史漫画です。2019年2月15日に最新第二巻が発売されました。

ComicWalker -

第一話とあわせて期間限定(~2019年3月5日)で3話までWEBで読むことができます。

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ヴラド・ドラクラのあらすじと魅力

物語の始まりは1456年9月。1453年にコンスタンティノープルを陥落させて勢力を拡大するオスマン帝国と、神聖ローマ皇帝家であるハプスブルク家の君主を戴くハンガリー王国という二大国に挟まれた小国・ワラキア公国(現・南ルーマニア)で公位に復帰したばかりのヴラド3世が、主君をないがしろにして専横を極める貴族たち、圧力を加えてくる両大国の狭間で知略を尽くして権力を確立していく様が描かれます。

第一巻では君主といえ名ばかりの弱い権限しか与えられていないヴラドが、傀儡なりにオスマン帝国の圧力に抵抗し、密かに忠実な家臣を集め、貴族たちの裏を欠いて力を蓄えていく静かな戦いが、そして第二巻ではいよいよ、作中のヴラドの言を引くなら、左右の腕であるリナルトとストイカ、剣となるチェルニクという忠実な家臣を得て強力な貴族勢力たちと、ハンガリー王国も巻き込んでの血で血を洗う激しい政争が展開されていきます。

特に第二巻は、陰謀と裏切り、暗殺や罪なき人々の殺戮が次々と展開するなりふり構わぬ権力闘争が描かれ、息つく暇もない緊張感とともにページをめくりました。高低差のある希望と絶望の断崖を、落下させられては引き戻され、また突き落とされては引き上げられを繰り返しながら、ようやく明るい世界が見えたその刹那で一気に奈落へと突き堕とされる感覚を、久しぶりに味わされました。

「真の意味での恐怖とは、静的な状態ではなく変化の動態――希望から絶望へと切り替わる、その瞬間のことを言う」などとFate/Zeroの名台詞が思い出される読後感です。二巻の衝撃的なラストカットに至る展開でいよいよヴラド3世と彼を取り巻く人々の大河ドラマが始まったと思わされるので、まずは一、二巻までの一気読破をおすすめします。

中世末期のワラキア周辺史

当時のワラキア公国を巡る国際関係としては、本作では今のところ名前だけの登場であるオスマン帝国の征服者メフメト2世が1453年、コンスタンティノープルを陥落させてビザンツ帝国を滅亡させ、さらにバルカン半島へと勢力を拡大しようとするも、1456年、ハンガリー王国の摂政フニャディ・ヤーノシュにベオグラードの戦いで敗れて企図を挫かれて、体制を立て直しているところです。とはいえ両国の中間地帯となるワラキア公国への圧力は依然として強く、本作でもその様子が描かれます。

ハンガリー王国は、元々九世紀末、マジャール人の征服によって建てられ、1001年のイシュトヴァーン1世の戴冠によって王国となった比較的新しい国ですが、十三世紀のモンゴル帝国の侵攻後のベーラ4世の改革を経てナポリ・アンジュー朝の大王ラヨシュ1世時代に最大版図を実現。アンジュー朝断絶後、後を継いだジグモンド王は神聖ローマ皇帝を兼ねていましたから、一気に中欧からバルカンに至る超大国となりますが、内政はフス戦争をはじめ反乱に悩まされて弱体化。その後継としてハンガリー王位をハプスブルク家とポーランド王家とが争い、1456年時点では1444年に4歳で継承した神聖ローマ皇帝フリードリヒ3世の甥ラースロー5世の治世下ですが、王権は弱く側近たちが力を持っていました。その中で、対オスマン戦争で活躍したフニャディ・ヤーノシュのフニャディ家が力を持つようになっています。これも作中で描かれる通りで、ヤーノシュの次男マーチャーシュも主要登場人物として活躍していますね。

その狭間のワラキア公国の君主がヴラド3世、その盟友、隣国モルドヴァ公国の公子シュテファンはヴラド3世の下に亡命中というのが一巻時点での大まかな情勢となっていますね。ワラキア公国・モルドヴァ公国はともにモンゴル軍の侵攻後一時的にハンガリー王国の支配が弱体化した十三~十四世紀に独立国となった新興の公国でしたが、以後はハンガリー王国とオスマン帝国の間で揺れ動く歴史をともに辿り、それゆえ君主権力も安定せず、作中で描かれる通り貴族たちの権力闘争渦巻くいばらの道を歩んできた歴史があります。ワラキア公ヴラド3世、モルドヴァ大公シュテファン3世はともにそんな大国に翻弄される小国で中央集権化を試みた人物として歴史に名を残しています。彼らの苦闘と活躍がどのように描かれるのかはもちろん本作のみどころとなるでしょう。

あらためて、手段を択ばず死力を尽くして生き残りを図る人々のドラマが展開する本作はすでに歴史ファンならば大満足間違いないであろう高い完成度の作品だと思いますが、これから、歴史ファンならずとも多くの読者をとりこにする魅力を持った大河歴史漫画となっていくのではないかと期待せずにはいられない注目作だと思います。

参考書籍

・南塚 信吾 著『図説 ハンガリーの歴史 (ふくろうの本/世界の歴史) 』(河出書房新社,2012年)
・岩崎 周一 著『ハプスブルク帝国 (講談社現代新書)』(講談社,2017年)

Kousyou

「Call of History ー歴史の呼び声ー」管理者。個人ブログはKousyoublog。英独仏関係史、欧州中世史、近世日本社会史、鎌倉幕府史などに興味があります。

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