「肥沃な三日月地帯(” Fertile Crescent ”)」とは

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「肥沃な三日月地帯(” Fertile Crescent ”)」とは古代オリエント史において、ペルシア湾からメソポタミア、シリア、エジプトにかけての南側に開いた、農耕に適した地理的・気候的条件を満たして人類最初の農耕に基づく都市文明が築かれた三日月状の地域を指す。

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ブレステッドによる「肥沃な三日月地帯」の提唱

1916年、考古学者ジェームズ・ヘンリー・ブレステッド(” James Henry Breasted “ , 1865-1935)が著書” Ancient Times — A History of the Early World ”で提唱した歴史的・地理的概念である。同著は日本語訳は未発売だが、すでに著作権保護期間も切れており、WEB上で公開されており、無料で閲覧することができる。同書の101頁で「肥沃な三日月地帯(” Fertile Crescent ”)」について以下の通り記している。

"Ancient times, a history of the early world;" p100 彩色地図

“Ancient times, a history of the early world;” p100 彩色地図

"Ancient times, a history of the early world;" p101

“Ancient times, a history of the early world;” p101
肥沃な三日月地帯に関する記述

This fertile crescent is approximately a semicircle, with the open side toward the south, having the west end at the southeast corner of the Mediterranean, the center directly north of Arabia, and the east end at the north end of the Persian Gulf (see map, p. 100). It lies like an army facing south, with one wing stretching along the eastern shore of the Mediterranean and the other reaching out to the Persian Gulf, while the center has its back against the northern mountains. The end of the western wing is Palestine; Assyria makes up a large part of the center; while the end of the eastern wing is Babylonia.

This great semicircle, for lack of a name, may be called the Fertile Crescent.1 It may also be likened to the shores of a desert-bay, upon which the mountains behind look down—a bay not of water but of sandy waste, some eight hundred kilometres across, forming a northern extension of the Arabian desert and sweeping as far north as the latitude of the northeast corner of the Mediterranean. This desert-bay is a limestone plateau of some height—too high indeed to be watered by the Tigris and Euphrates, which have cut cañons obliquely across it. Nevertheless, after the meager winter rains, wide tracts of the northern desert-bay are clothed with scanty grass, and spring thus turns the region for a short time into grasslands. The history of Western Asia may be described as an age-long struggle between the mountain peoples of the north and the desert wanderers of these grasslands—a struggle which is still going on—for the possession of the Fertile Crescent, the shores of the desert-bay.

Ancient Times — A History of the Early World

ブレステッドは「肥沃な三日月地帯」について西端を地中海南東部、中心をアラビアの真北、東端をペルシア湾の北端として南側に開いた半円形をなす地域とし、南側に開けた砂漠地帯を海に見立てて” the desert-bay ”と呼び、その上で、西アジアの歴史は北部の山の民と砂漠の放浪者との間の砂漠の海の岸辺である肥沃な三日月地帯を巡る未だに続く闘争の歴史として説明できるかもしれないとしている。

「肥沃地帯」と「不毛地帯」?

一方、この「肥沃な三日月地帯」という概念についてはそれ以外の地域を「不毛地帯」とする誤解を招きかねないという批判もある(『図説古代オリエント事典―大英博物館版』)。「肥沃」と対比されたのは南側の砂漠地帯であって、ブレステッド以後の研究によって、ブレステッドが「肥沃な三日月地帯」と呼んだ一帯の北側でも、例えばチャタルホユック遺跡(1958年発見)など多くの最初期の定住生活の痕跡が残っており、ブレステッドの指した範囲よりも広く取られるか、または、曖昧に捉えるか、あるいは、「肥沃な三日月地帯」という言葉自体を使わず、この地域の地理的・気候的条件の説明をする方が適切な場合もあるだろう。ゆえにある程度可変的な地域概念でもある。

肥沃な三日月地帯の地図

肥沃な三日月地帯の地図
wikimedia commonsより

「肥沃な三日月地帯」の諸条件

「肥沃な三日月地帯」の中核といえるメソポタミアはティグリス川とユーフラテス川に挟まれた一帯で、両河が合流するペルシア湾の河口付近にかけて平坦な沖積平野を形成、海面との高低差がほとんどないため、河川の氾濫や潮の干満の影響を受けやすい湿地帯となる。冬と夏の気温差が激しく、春になると雪解け水で両河は頻繁に洪水になる反面、これによって農業に適した沖積土ももたらすことになる。豊かな土壌と気象条件を持った地域であると同時に、必然的に襲ってくる洪水・塩害・猛暑など過酷な環境にも立ち向かわなければならず、この自然環境とのたたかいの中で人類は文明を立ち上げていった。そういう「肥沃な三日月地帯」を「肥沃」たらしめる努力の過程が、「歴史」の始まりを招いたのである。

最重要世界史用語として

なんにしろ、ブレステッドの提唱以後、古代オリエント史において有用な表現として重宝されて、日本でも中学・高校の教科書に掲載され世界史の授業で必ずといって良いほど習う歴史用語となっているし、今後も学校教育ではその有用性は揺るがないだろうと思われる。

原著が未邦訳のまま百年以上経過しているのが不思議なくらいだが、すでにブレステッド死後80年が経過して著作権も切れていることだし、そろそろ研究者の適切な解説つきで日本語訳してもいいのではないかと思わないでもない。世界史用語でも最も有名な言葉の一つでもあるし、良い古代オリエント史および研究史への導入になるのではないかと思うのだがどうだろうか。

参考文献

・ピョートル・ビエンコウスキ, アラン・ミラード 編集(池田 潤, 山田 恵子, 山田 雅道, 池田 裕, 山田 重郎 翻訳)『図説古代オリエント事典―大英博物館版』( 東洋書林 , 2004年)
・大貫 良夫 , 前川 和也 , 渡辺 和子 , 屋形 禎亮 著『世界の歴史1 人類の起源と古代オリエント(中公文庫)』(中央公論新社,2000年,原著1998年)
・佐藤 次高 編『西アジア史〈1〉アラブ (新版 世界各国史)』(山川出版社,2002年)
・世界史小辞典編集委員会 編『山川 世界史小辞典』(山川出版社, 2004年)
Ancient Times — A History of the Early World
Fertile Crescent – Wikipedia

Kousyou

「Call of History ー歴史の呼び声ー」管理者。個人ブログはKousyoublog。英独仏関係史、欧州中世史、近世日本社会史、鎌倉幕府史などに興味があります。

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