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中世騎士や女剣闘士の”不撓不屈の一騎討ち”が熱い『甲冑武闘』久慈光久作

『狼の口』の久慈光久氏が今回描くのは“不撓不屈の一騎討ち”。

ばら戦争での二人の騎士の一騎討ちを描いた表題作『甲冑武闘』、ローマ時代の女剣闘士の戦いを描く『剣闘奴隷アキレイア』『剣闘奴隷アマゾニア』の三本の中編と現代スイス軍の女性兵士の訓練を描く『新兵ゾフィ』、ギリシア神話を現代風に翻案した『セレネとエンデュミオン』、『狼の口』の登場人物が長野の温泉旅館に集合!?ヴァルターとヴォルフラムがババ抜きで雌雄を決する『慰安旅行』の三本の短編が収録されています。

まずは表題作『甲冑武闘』が激渋胸熱な傑作です。舞台は十五世紀後半のイングランド、ランカスター派とヨーク派とが血で血を洗う内戦を繰り広げた「ばら戦争」。その代表的な戦いである「ウェイクフィールドの戦い(1460年)」で出会ったランカスター派の老騎士ウィリアムとヨーク派の若き騎士プライスフィールドのジョン、二人の騎士の一騎討ちから物語は始まります。二人は後に捕虜期間のわずかな間だけの師弟関係となり、そして袂を分かち、1461年、両派の雌雄を決することになったばら戦争前半の天王山「タウトンの戦い」で再び相まみえることになる・・・というストーリーです。

『甲冑武闘』12-13頁

『甲冑武闘』12-13頁
Ⓒ久慈光久

練達の老騎士と新進気鋭の若い騎士が持てる戦闘技術と駆け引きと気力の全てをつぎ込んでぶつかり合い、お互いが一撃に命を懸ける、一騎討ちの熱さを存分に味わえる作品です。特に「武骨で老練、戦場にしか生きる場所がない老戦士の最後の戦い」というご飯何杯でも食べられそうな設定、最高に好き・・・何気にエドワード4世陛下が戦場の華をわかっている人物として描かれているのは、いろいろ報われないし後世からも酷い低評価受けることも多い人物なだけに、嬉しいところです。

『装甲兵を打撃や斬撃で倒すのは難しい
鎧の隙間を狙って突くのが効率的だ
互いの隙を狙い合う駆け引きが
この時代の
装甲兵の正しい戦法
すなわち甲冑武闘(アーマード・バトル)』(19頁)

近年日本でも競技スポーツとして中世西洋剣術(アーマード・バトル)が人気になってきていますが、それらの経験者や興味がある方にもおすすめの内容となっているのではないでしょうか。本作と長田龍太著『中世ヨーロッパの武術』をあわせて読むとかなり「リアル」な中世ヨーロッパの戦闘技術が描かれていることがわかるかと思います。

続く『剣闘奴隷アキレイア』『剣闘奴隷アマゾニア』はともに古代ローマ時代に舞台を移し、女性剣闘士が主人公の中編です。『剣闘奴隷アキレイア』はイタリア半島南部の町トゥリィで無敵を誇る裁断闘士(アルベラス)の異名を持つ美しい剣闘士アキレイアの華麗にして圧倒的強さの剣技を堪能する一作です。対する『剣闘奴隷アマゾニア』はトラキア出身の捕虜となった少女アマゾニアの剣闘士デビュー戦を描きます。初戦の相手は無敗の女剣闘士アレクサンドラ。圧倒的不利の中でアマゾニアはいかに戦うのか、というお話となっています。登場人物全員女性ですが、敗者は容赦なくきっちり残酷な死に様を見せてくれます。

この女剣闘士2作品、あきらかに話が繋がりそうだし、ぜひ新作として連載を期待したいですね。アキレイアとアマゾニアという対照的な二人の女剣闘士の出会いを描くだけでも良作になりそうです。

また、『狼の口』ファンとしてはスピンオフでギャグ時空な『慰安旅行』は最高に笑わされます。上諏訪の温泉旅館でのレオポルト殿下との接待ババ抜きからのヴァルターvsヴォルフラム・・・で先生何描いているんですか。また、現代スイス軍の新兵訓練を描いた『新兵ゾフィ』も『狼の口』での死屍累々の独立戦争劇を背景に見ると色々と感慨深い小品となっています。『セレネとエンデュミオン』もかなりぶっ飛んでいて、何故か山頂でテント張ってゆるキャンしているゼウスの絵面が強すぎました。

読み切り歴史漫画の傑作揃いな良作品集でした。

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