中世ヨーロッパの異教的な信仰・風習・迷信のまとめ

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中世ヨーロッパでは七世紀末頃からカロリング朝フランク王国の支援を背景としてゲルマン人へのキリスト教布教が進んだが、改宗してもキリスト教化は徹底されず、多神教や自然崇拝による異教的伝統文化も色濃く残ることとなった。

その異教的な伝統がどのようなものであったかは、教会側の史料に概ね禁令として多く残されている。1020年頃ヴォルムスの司教ブルカルドゥスによって書かれた『教令集』の中の贖罪規定にある異教的慣習、迷信、魔術に関する記述を野口洋二著『中世ヨーロッパの異教・迷信・魔術』(早稲田大学出版部,2016年)を参照して簡単にまとめ。なお、一般的な魔女に関わる例はここでは割愛した。

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異教的な信仰・習慣

・天、地、太陽、月にかけて誓う
・諸元素、太陽、月、新月や月食、星の動きを崇拝
・泉、石、樹木や十字路に行き、ロウソクや松明を燃やしてパンやその他供物を捧げて、そこで食べたり、身体や心の治癒を祈る
・墓や泉・樹木・石・十字路に捧げられた供物を食べ、塚に石を積んだり、十字路に置かれた十字架に花を添えたりする。
・一月一日になると鹿や牛の姿をして祝う
・木曜日にはユーピテルを讃えて祝う
・魔法の糸を巻き、紡ぎ、縫い物をする
・嵐を起こす者を信じる(中世ヨーロッパの異教伝承「マゴニアの空飛ぶ船と嵐を起こす者」
・誰かの健康や病気からの快復のために、息子や娘を屋根の上に上げる
・誰かが死んだ場所で穀物を焼いたり、他人に損害を与えるために死者の帯を結び目で縛る
・パンや草、何らかの邪悪な帯の上で呪文を唱え、樹木を隠したり、二本あるいは三本の道が交差するところに置き、家畜や犬、家族を災害や病気から守ろうとする
・キリスト教の祈りとは違う呪文を唱えながら薬草を集める
・子供用の小さな弓や子供用の小さな靴を作り自身の貯蔵小屋や納屋に投げ入れると、森の神サテュロスや妖精ピロシがこれを使って遊ぶかわりにお礼に贈り物をしてくれる
・運命の女神パルカの存在を信じ、人の運命はパルカが決め、愚かな者を人狼に変える
・運命の女神パルカの三姉妹を迎えるため、食卓の上に食事を三本のナイフとともに置く
・森の女と呼ばれる野生の女たちが、恋人として姿をあらわし楽しんだのち別れたいと思えば姿を消す。

性的な迷信

性的な迷信について詳しく記述がある。

『生きた魚を取り、それを自分の性器に入れ、魚が死ぬまで長い間そこで生かしておく。そして、彼女に対する愛をより燃えたたせるために、それを煮たり焼いたりして、夫に食べるように勧める。』(注1)

『彼女たちは、地面に跪き、尻を剥き出しにし、その上でパンをこねるように命じ、そして、それを焼き、夫がもっと愛に燃えるように、彼に食べるように勧める。』(注2)

『彼女たちは、その夫がもっと愛に燃えるように、自分の月経の血を取り、飲み物や食べ物に混ぜ、夫に食べさせるか飲ますかするために与える。』(注3)

『彼女たちは人間の生殖腺をとり、それを焼き、その灰を健康に良いからといって夫に飲ませている』(注4)

『彼女たちは衣服を脱ぎ、裸の前身に蜂蜜を塗り、地面の上に広げたリネンの上に撒いた小麦の上に、蜜を塗った身体を横たえ、そしてごろごろとその上を転げまわり、それから湿った身体に付いた小麦の粒を注意深く集め、それを挽臼に入れ、挽臼を太陽と反対の方向に回して粉にする。そして彼女らは、その粉でパンを作り、夫に食べさせる。そのパンを食べると夫は弱くなり、やつれる。』(注5)

出産や死に関する迷信

・子供が洗礼前に死んだとき、子供の死体を秘密の場所に置いて、この子供が生き返って人々に害をなさないように杭で刺す
・子供が死産し母も産褥死したとき、母と子を一つの墓に横たえて杭で刺す。
・死体が家の中に残っているとき、川の水を器に満たし、死体が持ち上げられた時、棺の下に水を撒き、家から運び出されるとき腰より高く持ち上げないようにすることで、治癒のまじないとする。
・殺された死体に膏薬を持たせ、死後傷が癒されるよう膏薬と一緒に埋葬する。

雨乞いのまじない

『多くの若い娘たちを集め、一人の処女を指導者のように先頭に歩かせ、彼女を裸にし、こうして裸にした少女を、ドイツ語で「ベリサ」と呼ばれるヒヨス草の生えている村の外に連れていき、この裸の少女に彼女の右手の小指でその草を掘り出させ、掘り出した根っこを少女の右足の小指に紐でしばりつける。そして、各々の女の子たちは皆それぞれ手に小枝を持ち、草を後ろに引きずった前述の少女を近くの川に連れてゆき、小枝で少女に水をかけ、こうして自分たちのまじないで雨が降ることを期待する。その後、彼女たちは裸の少女と手をつないで、少女を後ろ向きに蟹のように歩かせ、川から村に連れもどす』(注6)

占い・ジンクス

・旅に出るとき自身の左側から右側にかけて鳥が鳴くと旅の行く末は良い
・どこで泊まるか悩んでいるとき、鼠捕りと呼ばれる鳥(ミミズクか梟)が行く手の前を横切るとそれを信頼する
・夜明け前に出掛けなければならないとき、雄鶏は鳴き声で霊を退けるので雄鶏が鳴く前だと悪い霊が危害を加えるため雄鶏が鳴くのを待つ
・病人が寝ている家に近づいたとき、家の近くの石をひっくり返してミミズ、蛆、蟻など動くものがいれば病人は治る
・家の中で火を燃やしている場所を掃除して、大麦の粒を熱したところに置き、粒が跳ねれば危険が迫っている

以上、いずれも教会によって禁止されている事項だが、罰則は軽く、魔術による堕胎で十年の贖罪(定められた日に教会で告解(懺悔)する)期間が設けられているものが最大で、女性の性的迷信が五年、あとは三年から五日の贖罪の義務が生じるにとどまる。

魔術的な伝統・習慣が死刑とされるようになるのは十五世紀半ばの例を先駆として、中世が終わり近世になった十六世紀から十七世紀にかけて魔女裁判が本格化する時期で、中世は民衆の間で一般的だった異教的伝統をいかにキリスト教化するかが模索され、キリスト教と習合しながらある程度共存していた時期であった。

脚注

注1)ヴォルムス司教ブルカルドゥス「教令集 第十九巻第五章 矯正者・医者」第172項(野口洋二著『中世ヨーロッパの異教・迷信・魔術』(早稲田大学出版部,2016年)92-93頁)

注2)ヴォルムス司教ブルカルドゥス「教令集 第十九巻第五章 矯正者・医者」第173項(野口93頁)

注3)ヴォルムス司教ブルカルドゥス「教令集 第十九巻第五章 矯正者・医者」第176項(野口93頁)

注4)ヴォルムス司教ブルカルドゥス「教令集 第十九巻第五章 矯正者・医者」第177項(野口93頁)

注5)ヴォルムス司教ブルカルドゥス「教令集 第十九巻第五章 矯正者・医者」第193項(野口94頁)

注6)ヴォルムス司教ブルカルドゥス「教令集 第十九巻第五章 矯正者・医者」第194項(野口96-97頁)

参考書籍

・野口洋二著『中世ヨーロッパの異教・迷信・魔術』(早稲田大学出版部,2016年)
・上山安敏著『魔女とキリスト教 (講談社学術文庫)』(講談社,1998年,原著1993年)
・フィリップ・ヴァルテール著(渡邉 浩司,渡邉 裕美子 訳)『中世の祝祭―伝説・神話・起源』(原書房,2007年,原著2005年)

Kousyou

「Call of History ー歴史の呼び声ー」管理者。個人ブログはKousyoublog。英独仏関係史、欧州中世史、近世日本社会史、鎌倉幕府史などに興味があります。

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