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マーリンの双子の姉妹ガニエダ(グウェンジーズ)の伝承と逸話

ガニエダ(ラテン語”Ganieda”、ウェールズ語”Gwenddydd”グウェンジーズ、注1)はウェールズの伝承「マルジンとグウェンジーズの対話」(1100年以前成立)やジェフリー・オブ・モンマス著「メルリヌス伝(マーリンの生涯)」に登場する魔術師・予言者マーリンの姉妹。

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ウェールズの伝承上のグウェンジーズ(注2)

「ヘルゲストの赤本」

「ヘルゲストの赤本」

「マビノギオン」の原本のひとつ、1382年~1410年頃に編纂されたとみられる古写本「ヘルゲストの赤本」に収められた「マルジンと彼の姉妹グウェンジーズの対話(ウェールズ語” Cyfoesi Myrddin a Gwenddydd ei chwaer”,英語” The Dialogue Between Myrddin and His Sister Gwenddydd”,注3)」にマルジン(マーリン)の姉妹グウェンジーズとして登場する。この詩は西暦1100年頃以前に成立したとみられ、マルジンとグウェンジーズが十世紀半ば頃までのノーサンブリアからウェールズにかけての歴代ブリトン人統治者を語る形式で進む。

詩の中でグウェンジーズはマルジンを「双子の兄弟”twin brother”」と呼んでおり、二人が双子であったことがわかる。また、「私は兄弟(マルジン)と離れるたびに思い焦がれる”I pine every time I leave my brother,”」「あなたの頬に涙が見えるけど” Though I see tears on your cheeks”」など彼女はマルジンを何かと思いやり、敬意を持って接していることが伝わる。

また、妹と訳されることが多いが、マルジンを指して「わたしが優しく養ってきた人――” Whom I have tenderly nourished–”」 という年長を思わせるグウェンジーズの言葉もある一方、マルジンも「私も私の罪のない姉妹に命じる” I too command my blameless sister”」と上位にあるような言い回しをしていて、姉と妹のどちらなのかは必ずしもはっきりしない。

「メルリヌス伝(マーリンの生涯)」のガニエダ(注4)

「ブリタニア列王史」の著者ジェフリー・オブ・モンマスが十二世紀半ば頃に書いた「メルリヌス伝(ラテン語” Vita Merlini”,英語” The Life of Merlin”マーリンの生涯)」でマーリンの姉妹として”Gwenddydd”のラテン語表記であるガニエダ”Ganieda”の名で登場する。

ガニエダはクンブリア(ストラクスライド)王ロダルクス(注5)の王妃で、森に入って行方不明となっていた兄メルリヌス(マーリン)を心配し、家来を派遣して探させ、王宮へ連れ帰らせた。メルリヌスを説得する使者が言うには、ガニエダとマーリンの妻グウェンドレーナ”Guendoloenae”は二人して「ひたすら涙に身をまかせ,悲しい日々を送っている。食べ物とて何一つロにせず,また夜は繁みをさまよう彼女らを眠りが抱きしめてはくれない。それほどに二人の悲しみは大きいのだ。」(188~190行目)という。

王宮に戻ったメルリヌスだが、人の多さに辟易してガニエダや妻を置いて森に戻ろうとする。ロダルクス王は彼を引き留めようとするが、メルリヌスはロダルクス王をけむに巻こうとガニエダの不倫の可能性をほのめかして混乱させる。疑心暗鬼となったロダルクス王がガニエダに辛くあたったため、ガニエダは夫にこう進言する。

「まああなた,何故お悲しみです。何故これでこうもお怒りになり,
いわれもなく私を咎めて,気違いの言葉を信用なさるのです。
理性を欠き,真と偽りとを混同している者の言うことです。
もう幾度となく彼を信じた者が彼以上の物笑いとなっております。
ですから,さあ,お聞き下さい。私の目に狂いがなければ,
彼は錯乱していて,真実を語ったのではないことを証明いたしましょう。」(299行目~304行目)

そういうと、一人の小姓を呼んでメルリヌスのところへ行かせ、その小姓がどのように死ぬか予言させた。続いて小姓を扮装させて改めて予言させ、次に女装させてもう一度繰り返すと、メルリヌスは三度とも違う死に方を予言してみせた。同じ人物なのに全く違う死に方を予言した様子を見た王は大笑いして機嫌をなおした。

結局、メルリヌスを引き留めることが出来なくなり、メルリヌスが王宮から去る時、ガニエダはメルリヌスの妻グウェンドレーナを呼び寄せ、嘆き悲しむ彼女の姿を見せて、彼女をどうするつもりかとメルリヌスに詰め寄っている。しかし、メルリヌスは妻に再婚を促して一人森へ入っていった。

その後、再婚するグウェンドレーナの結婚式に贈り物をもって訪れたメルリヌスだが、衝動的に再婚相手を殺害して逃げようとするが川に溺れて捕らえられた。ロダルクス王と王妃ガニエダは彼を憐れに思って王宮に留まるよう説得するが、意思は固く、メルリヌスは森へ行こうとする。ガニエダは一緒に居て欲しいと懇願し、せめて冬が明けて陽気が良くなるまで待って欲しいと願う。そこでメルリヌスはガニエダに人里離れた地に家を建ててくれるよう頼み、ガニエダはこれを承諾して天文観測所を建て、召使をつけてメルリヌスに与えた。その後もガニエダはたびたびメルリヌスの元へ食べ物を運んでやり、話し相手になった。

夫のロダルクス王が亡くなると、悲しみを堪えて堂々とした弔文を読み上げ、後事を息子たちに託すと、兄弟メルリヌスとともに森に隠棲して夫の弔いの日々を送ることを宣言する。しかし、すぐには実行に移さず、その後しばらく女王として統治して善政を敷いていたが、メルリヌスの館に滞在しているとき、突然予言の力を獲得した。このとき、メルリヌスからは予言の力が消えていたため、メルリヌスはガニエダに「それならばもうこの務めはお前のものだ。お前はこのことを喜び,私の許で心を専らにしてすべての予言を行なうがよい。」(1523行目~1524行目)と勧めて二人はともに暮らすことになった。

ガニエダの人物像について

まず何より兄弟思いで、非常に愛情が深い点が挙げられる。母性にも似た愛情を兄弟マーリンに注いで、彼が良いように協力を惜しまない一方、マーリンが妻グウェンドレーナへ酷薄である点を厳しく指摘して改善を促し、夫ロダルクス王をないがしろにすることもなく、非常に配慮に長けている。マーリンをやりこめる聡明さも持っており、夫ロダルクス王が自慢する美貌の持ち主で、女王としても堂々とした対応をしており、欠点だらけのマーリンと正反対に非の打ち所の無いとても魅力的な人物として描かれている。

また、前述の通り妹と訳されることがほとんどだが、「マルジンとグウェンジーズの対話」「メルリヌス伝(マーリンの生涯)」両方の彼女の描写を見ると、むしろマーリンの保護者的な位置づけであり、姉ではないかと思わされることが多い(注6)。妹とする場合、これらのガニエダの行動は兄への忠実さの表れと見られるだろうし、姉だとするなら弟への慈愛の表れと見られるだろう。

まぁどちらにしてもマーリンは彼女にだけは頭が上がらないことは間違いない。

ウェールズ伝説の詩人タリエシンについて
タリエシン"Taliesin"は六世紀頃、イングランド北部ノーサンブリア地方に実在した詩人(バルド)。後にウェールズ地方で彼に関する様々な伝承がつくられた。伝承の中では数百年の時を越えて様々な時代・世界に登場し、長く生き続けて転生を繰り返し...

参考文献

・森野聡子 訳『ウェールズ語原典訳マビノギオン』(原書房、2019年)
・フィリップ・ヴァテール著(渡邉浩司,渡邉裕美子 翻訳)『アーサー王神話大事典』(原書房、2018年)
・六反田収「ジェフリー・オヴ・マンマス : 『メルリーヌス伝』(訳) (1)」(『英文学評論 (41)』1979年、1-65頁)
・六反田収「ジェフリー・オヴ・マンマス : 『メルリーヌス伝』(訳) (2)」(『英文学評論 (43)』1980年、1-72頁)
・Mary Jones” The Dialogue Between Myrddin and His Sister Gwenddydd
・” Cyfoesi Myrddin a Gwenddydd ei chwaer • CODECS_ Online Database and e-Resources for Celtic Studies
・” History of the Britons (historia Brittonum), by Nennius”(Project Gutenberg, 英訳J. A. Giles)
・”Battle of Arfderydd – Wikipedia

脚注

1)グウェンディッド/グウェンディドと訳するものもあるが、ウェールズ語ではddはザ行(森野聡子 訳『ウェールズ語原典訳マビノギオン』(原書房、2019年)371頁)。また、フィリップ・ヴァテール著(渡邉浩司,渡邉裕美子 翻訳)『アーサー王神話大事典』(原書房、2018年)111頁でもグウェンジーズと訳しているのでこれに従った。

2) 詩の内容についてはMary Jonesによる英訳” The Dialogue Between Myrddin and His Sister Gwenddydd”を参照、引用についても同様。

3)” Cyfoesi Myrddin a Gwenddydd ei chwaer • CODECS_ Online Database and e-Resources for Celtic Studies

4) 六反田収「ジェフリー・オヴ・マンマス : 『メルリーヌス伝』(訳) (1)」(『英文学評論 (41)』1979年、1-65頁)および六反田収「ジェフリー・オヴ・マンマス : 『メルリーヌス伝』(訳) (2)」(『英文学評論 (43)』1980年、1-72頁)参照、引用についても同様。

5) ストラクスライド王国はカンブリア地方(イングランド北部)に実在したブリトン人の王国。ロダルクスはウェールズ語で” Rhydderch Hael”(寛大なハエル)といい(六反田1979年、62頁)、「ブリトン人の歴史」にも六世紀にバーニシア王国と戦った四人の王の一人として挙げられ(” History of the Britons (historia Brittonum), by Nennius”(Project Gutenberg, 英訳J. A. Giles))、おそらく実在していたとみられる。573年にカンブリア地方で起きたブリトン人同士の大戦” Battle of Arfderydd”で一方を率い勝利した英雄として知られる。この戦いはウェールズ伝承で繰り返し語り継がれており、「マルジンとグウェンジーズの対話」ではマルジンは” Rhydderch Hael”に従って同戦に従軍した影響で狂気に陥ったことになっている。

6)「マーリンの生涯」の抄訳を行っているこちらのサイト「マーリンの生涯」でも「姉の誤訳じゃないかと思う」という指摘がある。

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