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ジャンヌ・ダルクのラストバトル回!『レベレーション-啓示-(5巻)』(山岸凉子)感想

山岸凉子先生によるジャンヌ・ダルク伝第五巻。前回、ニヴェルネ遠征でペリネ・グレサールに大敗するもオルレアンでバタール(ジャン・ド・デュノワ)に歓待されて心の平安を取り戻したジャンヌ。いよいよ舞台は最後の戦いとなるコンピエーニュ包囲戦です。

同時代の歴史家が活写した通りの真紅のマントをなびかせて、トレードマークの軍旗を高く掲げ、縦横無尽に駆け巡るジャンヌ・ダルクの勇姿がベテランの筆で見事に描かれます。ジャンヌ・ダルクのラストバトルなだけに、山岸先生も非常に力が入っていることがわかり、本巻だけでなくシリーズ通しての最大の見せ場といってよいでしょう。ジャンヌ・ダルクファンとしてはもう感情の高まりが抑えられません・・・すごい。

しかし、まだまだ巻の序盤。次々と史実を踏まえた見せ場が続きます。コンピエーニュの守備隊長ギヨーム・ド・フラヴィはジャンヌを裏切ったか否かで議論が分かれてきた人物ですが、ここでは安易な裏切り論に与せず、やむを得ない措置として描くことで近年の研究成果に準じています。このあともコンピエーニュを守り通したフラヴィは再評価されていますからね(詳しくは「ジャンヌ・ダルクの主な戦友30人まとめ」のギヨーム・ド・フラヴィの項にまとめています)。

ジャンヌを捕らえたブルゴーニュ軍のリオネル・ド・ヴァンドンヌの頬に傷があるのも注目で、これも史実通り。実はザントライユにつけられた傷ですね。ザントライユも登場しているので何か因縁が描かれるかと思いましたが、流石に脇役同士のエピソードなのでありませんでした。

ランス大司教ルニョー・ド・シャルトル、本作ではこれまで親ジャンヌ派として描かれていましたが、ソワソンでの別れの過程でジャンヌへの不信エピソードを盛り込んでくるところは実に上手い。そして期待していたヴァンドーム伯ルイ1世も登場ですが、こちらは温厚だが消極派の武将として少し描かれるに留まりました。

ジャンヌとともに兄ピエールと、史実では副官ジャン・ドーロンが捕虜となりましたが、本作ではジャン・ドーロンは助かり、代わりにジャン・ド・メッス(ヌイヨンポン)が捕虜に。最初のシノン行組はオルレアン包囲戦後の足取りが不明なため上手く創作で補完されています。このあとジャンヌの最も身近な人物としてジャン・ドーロンがシャルルに強くジャンヌ救出を訴えるので、そのための入れ替えでしょうか。虜囚となったピエールを励ますヌイヨンポンも描かれて、今後ピエールとヌイヨンポンの二人をどう描くかにも注目です。

ジャンヌが捕われてからのシャルル7世の描き方が実に奥深い。シャルル7世はジャンヌを見捨てたのか否か、様々な描かれ方がされてきましたが、本作のシャルルは様々な廷臣の思惑がぶつかり合う中で、ただひたすら決断をしない。優柔不断といえば優柔不断ですが、心の中ではずっと気にかかっていて、ドーロンの必死の請願に心動かされながら、それを押し殺して、決断しないことでどんどん疲弊の色を濃くしています。おそらく本作では描かれることのないだろう将来の復権裁判への伏線としてこの上なく上手いと思います。決して愚かでなく、しかし冷徹にもなれない人間味あるシャルル7世像で、素晴らしいですね。

捕われてからイングランドへ引き渡されるまでの描写も実に丁寧に史実のエピソードを盛り込んで描かれていて感動です。ブルゴーニュ公夫妻とジャンヌの対面も素晴らしかった。計算高く狡猾なキャラクターとしてこれまで描かれていたブルゴーニュ公フィリップ3世がジャンヌにただならぬものを感じて、慎重な態度を取り始める様は確かに大物。ブルゴーニュ公とジャンヌの対談は実際行われたものの内容は伝わっていないため、どう描くかと思っていましたが、イザベル・ド・ポルテュガルに焦点を当てるのはなるほどと思いました。

また、リニー伯の下に虜囚となってからのリュクサンブール家の女性たちとの交流も史実通り。偶然にもみんなジャンヌという名前で意気投合し、リニー伯への遺産相続で強い影響力を及ぼしていた叔母ジャンヌ・ド・リュクサンブールの強い要望でイングランドへの引き渡しにストップがかかっていました。作中で描かれる通りジャンヌ・ド・リュクサンブールの死がジャンヌ・ダルクの行く道を決定することに。

作中で描かれるようなイザベル・ド・ポルテュガル、リュクサンブール家の三人のジャンヌなど敵味方を越えて女性たちの協力や共感を得ていくのは、実際のジャンヌもそうです。これらはおそらく異端審問時の伏線として機能するのでしょう。捕らわれのジャンヌの実に良い理解者となったベッドフォード公妃アンヌ・ド・ブルゴーニュも次巻以降登場するのではないかと期待します。

アンヌ・ド・ブルゴーニュ~優しき公妃の紐帯としての生涯
アンヌ・ド・ブルゴーニュ(フランス語” Anne de Bourgogne ”,英語” Anne of Burgundy ”(アン・オブ・バーガンディ),1404年9月生-1432年11月14日没(注1))はベッドフォード公ジョン・オブ・ラ...

また、作中では枢機卿ヘンリー・ボーフォートがジャンヌの多額の身代金を出したことになっていますが、実際はボーフォートの介入はなく、ベッドフォード公がノルマンディーで三部会を開催して課税してまで身代金を工面しています。

さらに、予想もしていなかったのですが、異端審問を行う裁判官側でも多くのキャラクターが登場してきました。ピエール・コーションは有名ですが、トマ・ド・クールセルとかいう×△〇■※♂(あらんかぎりの罵詈雑言)はともかく、若き神学者ピエール・モーリスにまず注目ですね。実に真面目そうな見た目で登場しましたが、彼の心情の変化――彼は後にジャンヌに共感し彼女を熱く励ますことになるでしょう――を丁寧に描くことにするのでしょう。そして最後に登場して本巻の最後のページを飾るイザンバール・ド・ラ・ピエール!この人まで登場することになるとは!(感動)彼は史実では異端審問の場でジャンヌの側に立ち、命懸けでコーションらと対立することになります。

イザンバール・ド・ラ・ピエールについては以下の記事で簡単に紹介しています。

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ジャンヌ・ダルクの異端審問、一般的なイメージではよってたかってジャンヌを追い詰め、死に至らしめたように思われているかもしれませんが、実際にはジャンヌを異端として殺すために正式な手続きにこだわって、表面的には公平さを装って執り行われました。それだけに、非イングランド派の聖職者も多く呼ばれて、かなり複雑な力関係の中で開催されているのです。それらの関係者の思惑に介入して力でねじ伏せるのが、やはり本巻で登場したウォリック伯ロバート・ビーチャム(と登場するかはわかりませんがスタッフォード伯ハンフリー)らイングランド政府関係者ということになります。

本巻で登場したメンバーを見るに、これまでほとんどのジャンヌ・ダルク伝で描かれてこなかった異端審問の場での複雑な法廷ドラマが始まることはもはや明らかです。

1巻からここまで読み続けて確信するのは、この作品、ジャンヌ・ダルクを描いた作品としては最も史実を丁寧に踏まえた、屈指の傑作大河ドラマであるということですね。日本で誕生したジャンヌ・ダルク伝の傑作、ぜひ多くの人に読んでいただきたいです。

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