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ラファエロ作「ガラテアの凱旋」、失われた古代エジプトの青色を再現していた

ルネサンス期イタリアの画家ラファエロ・サンティ(1483年生~1520年没)の代表作「ガラテアの凱旋(イタリア語” Trionfo di Galatea”,注1)」(1512年頃)の海と空に描かれた青色の顔料が、古代エジプトで使われていた「エジプシャン・ブルー” Egyptian blue”」を再現したものであったことが判明した。ANSAが報じている。

ラファエロ「ガラテアの凱旋」

ラファエロ「ガラテアの凱旋」

アッカデミーア・デイ・リンチェイのメンバーであるアントニオ・スガメロッティ教授らの調査で青色の顔料の化学組成が、西ローマ帝国の崩壊以降製法が失われていた古代エジプトの青色顔料エジプシャン・ブルーのものと一致した(注2)。ラファエロ没後500年を記念して行われたこの調査結果は「ガラテアの凱旋」が展示されているヴィッラ・ファルネジーナで2020年10月6日から2021年1月6日まで行われる「ヴィッラ・ファルネジーナのラファエロ、ガラテアとプシュケ」展で発表される。

「ガラテアの部屋(『ポリュフェモス』(左)、『ガラテアの凱旋』(右)」(パブリックドメイン画像)

「ガラテアの部屋(『ポリュフェモス』(左)、『ガラテアの凱旋』(右)」(パブリックドメイン画像)

「ガラテアの凱旋」はラファエロのパトロンだった銀行家アゴスティーノ・キージの邸宅ヴィッラ・キージの「ガラテアの部屋」の壁画として1512年頃に描かれた作品。同邸宅は1579年にファルネーゼ家の所有となったため、現在はヴィッラ・ファルネジーナの名で知られている。

ギリシア神話を題材に「海のニンフ、ガラテアに恋慕の情を寄せるポリュフェモス」(注3)を主題としてセバスティアーノ・デル・ピオンボ作「ポリュフェモス」と並んで飾られており、壁面左の一つ目の巨人ポリュフェモスが右側の「ガラテアの凱旋」で描かれるガラテアを見つめる構図となっている。ガラテアは『ラファエロによる理想的な女性美の典型例』(注3)で「ガラテアの凱旋」は『周囲の荒々しい肉体を誇るトリトンとネレイスたちの戯れとは対比的に、ガラテアは周囲からは独立した上昇運動を示し、清らかな天上の愛への憧れを示す』(注3)と解釈されている。

「エジプシャン・ブルー」は約4500年前の古代エジプトで生み出された史上初の合成顔料である。古代から青色顔料の原料として重宝されたラピスラズリなど希少鉱物の代用品として壁画や家具、彫像などの着色に使われた。使われている遺物は多く残っており、神像や壁画、アンフォラなどの他、ルーヴル美術館大英博物館メトロポリタン美術館など様々な博物館に収蔵されている古代エジプト中王国時代のカバの置物が有名だ。

「メトロポリタン美術館収蔵、エジプト中王国時代のカバの置物

「メトロポリタン美術館収蔵、エジプト中王国時代のカバの置物”ウィリアム”」(メトロポリタン美術館、CC0ライセンス)

「エジプシャン・ブルー」はエジプトだけでなくメソポタミア、ギリシアなどに広がり、ローマ帝国時代まで多く使われていたが、西ローマ帝国の崩壊後、ローマのサン・クレメンテ・アル・ラテラノ教会の壁画(850年頃)などごく一部の使用例を除いて、九世紀頃までにほぼ使用されなくなり、十九世紀に古代エジプト研究が大きく進展して製法が解明されるまで失われた色であった(注4)。

ラファエロは何らかの方法で失われた製法を再現したものとみられる。「彼がガラテアに用いたのは、偶然にも神話の主題ではなく、ウルビーノの芸術家の工房で生まれ、古代世界に対する彼の大きな興味によって生じたものだろう」とスガメロッティ教授は語っている。

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ニュースソース

Raphael used Egyptian blue in Galatea“(ANSA,2020年9月1日付記事)

参考文献・ウェブページ

・越川倫明 他編著『ラファエロ 作品と時代を読む』(河出書房新社、2017年)
・ヤロミール・マレク 著(近藤二郎 訳)『エジプト美術 (岩波 世界の美術) む』(岩波書店、2004年)
・McCouat, Philip.”EGYPTIAN BLUE: THE COLOUR OF TECHNOLOGY

脚注

1)タイトルの日本語訳にはほかに「ガラテア(またはガラテイア)の勝利」があるが、ここでは越川倫明 他編著『ラファエロ 作品と時代を読む』(河出書房新社、2017年) の訳を参照して「ガラテアの凱旋」とした。

2)この調査に関する論文は”Detection and study of a palimpsest: macro-X-ray fluorescence scanning in the Loggia Room of Galatea“(2020)

3) 越川倫明 他編著『ラファエロ 作品と時代を読む』(河出書房新社、2017年)198-202頁参照。引用部分は順に198頁、201頁、202頁より

4)「エジプシャン・ブルー」についてはMcCouat, Philip.”EGYPTIAN BLUE: THE COLOUR OF TECHNOLOGY“を参照してまとめたもの

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