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ヨーロッパ史(書籍)

「中世ヨーロッパの都市の生活 (講談社学術文庫)」J・ギース/F・ギース 著

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中世盛期、シャンパーニュの大市で栄えたフランス・シャンパーニュ地方の中心都市トロワを舞台にして、中世都市に生きる人々の姿を描いた、同著者の「中世ヨーロッパの城の生活」「中世ヨーロッパの農村の生活」(いずれも講談社学術文庫)と並ぶロングセラーの一冊。

中世、西ヨーロッパにおける都市の発展は農業技術の革新による開墾の進展と大規模な人口増加を背景として十世紀頃からネーデルラント・フランドル地方の北海沿岸地域と北イタリアの地中海沿岸地域で始まった。両地域をつなぐセーヌ川、ライン川の沿岸地域で中継貿易地となる都市が次々と形成され、シャンパーニュ地方では四つの都市で年六回、大きな市が立てられて非常に栄えることになった。その一つが、本書の舞台となるトロワ市である。

本書では1250年頃のトロワ市に関する様々な史料から、中世の都市で生きた多様な人々の姿を浮き彫りにする。

本書の目次
プロローグ
第一章  トロワ 一二五〇年
第二章  ある裕福な市民の家にて
第三章  主婦の生活
第四章  出産そして子供
第五章  結婚そして葬儀
第六章  職人たち
第七章  豪商たち
第八章  医師たち
第九章  教会
第十章  大聖堂
第十一章 学校そして生徒たち
第十二章 本そして作家たち
第十三章 中世演劇の誕生
第十四章 災厄
第十五章 市政
第十六章 シャンパーニュ大市
エピローグ 一二五〇年以降

目次を見てわかるように、中世盛期のそこそこ裕福な市民の誕生から死までの一生を追体験し、職人、豪商、商人と様々な職業の人々が登場し、都市を取り巻く建築、文化、教育、政治、そして危機まで、中世都市に関する非常に幅広いトピックを扱っている。

中世ヨーロッパの都市に関するトピックで、特に知りたい人が多いであろう「ギルド」の運営の実態や規則など具体例について非常に詳しいのが嬉しい。

『ギルドには二種類の規則があった。一つは対外的なもの、つまり取引関係の取り決め、とでも呼べるもので、今一つはギルド内部に関するもの、つまり賃金、徒弟の雇用期間や雇用条件、福利厚生、ギルドへの義務などについての取り決めだった』(130頁)

原材料の質や素材、調達方法、さらに検査方式などが細かく決められ、同業者による価格調整や独占販売などは禁止されたという。『エールには穀物、ホップ、水以外の原料が含まれてはいけない』(130頁)とか、小売業者は飢饉時の食糧買い占めを防ぐため農作物の収穫前の予約注文をしてはいけないなど、本書を読むとかなり高度な生産管理や取引手順が定められていることがわかる。

『親方と徒弟の契約は(彼らがギルドに所属しているかどうかに関わりなく)、成文化されていることもあったし、単に「聖遺物に誓う」だけのこともあった。中世では、誓いはすべて聖遺物に対して行われた。親方は徒弟に食事、住むところ、衣服、靴を提供すること、そして「実の息子のように丁重に扱う」ことを約束した。徒弟は固定給を――少額であるにせよ――もらえる場合もあった。また、徒弟に教育を受けさせることを親方が約束することもあった。』(133頁)

『徒弟の一日は長く、過酷だった。徒弟がどんな毎日を送ることになるかは、親方の性格と経済状態次第で、親切な親方なら幸運だし、そのうえ裕福ならおそらくもっと恵まれた徒弟生活が約束されることになった』(134頁)

などといった徒弟に関する記述は現在でも通じる。それだけに現代の労働法も給与や労働時間、待遇などの労働条件が雇用者に左右されないよう、徒弟制の歴史を考慮して設計されているわけだが。

同著者の「中世ヨーロッパの農村の生活」で描かれた農民たち同様に、都市でも身分的上昇の機会が少なくなく、それは概ね金で買えた。これは江戸時代の日本でも良く見られたことだ。

『裕福な市民は領主に金銭的な奉仕をすることで騎士に叙せられることがあった。フィレンツェ出身の商人でのちにプロヴァン市民となったルニエ・アコーレはシャンパーニュの貴族たちと結びつきを深めて騎士となっている。息子を騎士にした市民も多い。』(156頁)

また、シャンパーニュの大市の開催都市であるだけに商取引に関する記述は豊富で様々な発見があるが、個人的に興味を惹かれたのは、元々『トロワの職人はほぼ全員が同時に商人であった』(115頁)というところに商業都市らしさがあるが、商品を仕入れて販売までの過程での商人と職人の協力関係の様子である。

イングランドとフランドルの間で羊毛取引が盛んとなったのは高校世界史でも習うところだが、その羊毛は当然中継貿易地であるシャンパーニュ地方のトロワに運ばれてくる。商人が仕入れた羊毛はまず毛織物商の家で予備的な加工が施され、織工の家に運ばれて糸巻機と機織り機で糸が紡がれる。次に縮絨工の家に運ばれて汚れ落としと同時に染色の下準備のため水に浸けられ、形が整えられて染色工の下で染色が行われて完成し、小売商によって販売されることになる――という、流れが詳しく描かれている。

また、シャンパーニュの大市での取引の様子も細かく描かれているが、特に信用買いの様子が具体的に記述されているのが実に面白い。

『イタリアの大手業者はもっと込み入った信用買いを行っていた。売り荷を積んだ隊商を大市が始まる週に着くように送り出すのではなく、早馬に「積み荷状」を持たせ、シャンパーニュ入りしている代理人に届けさせる。代理人は大市で毛織物を信用買いし、品物はイタリアへ発送する。自社の商品が「目方売商品」販売期間に間に合うように到着すると、代理人は「信用買い分の支払いを、これから自分たちが掛け売りする契約書でさせてくれ」と毛織物の売り手に交渉し、商品の香辛料を掛け売りし、自社の信用買い分を支払えるだけの信用買い証書を手に入れるのである。』(310-311頁)

さらには支払いを約束した商人の誓約書そのものが売買の対象になって、これを買った別の商人から支払いが請求されることもあったという。このあたり以前読んだ桜井英治 著「贈与の歴史学 儀礼と経済のあいだ」にある室町時代の「折紙」と呼ばれる目録の取引を思い出させられ、中世日本と中世ヨーロッパの商慣行比較などしてみると面白そうだ。

中世ヨーロッパの都市を取り巻く人々の生の姿に触れることが出来る良書で、中世に興味持っている人もそうでない人もとても楽しめて様々な発見に事欠かない一冊だと思う。シリーズあわせて非常にお勧めだ。

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