女子高生と一緒にレッツ登城!『東京城址女子高生 1,2巻』(山田果苗 作)感想

『東京城址女子高生』、その実にわかりやすく語呂があった覚えやすいタイトル通り、女子高生の主人公たちが東京の城址をめぐる漫画です。

高校二年生の広瀬あゆりは交際中の彼氏の浮気疑惑から言い合いとなり、その腹いせにペットボトルをゴミ箱に投げ入れるが大きく外して、近くの女の子の後頭部にクリーンヒット!平謝りで負い目を感じるあゆりは彼女、持田美音(みおん)の言うがままに城址歩きに付き合わされることになる・・・という導入です。

現在二巻まで発売中で、第一巻で紹介されるのは世田谷城、石浜城、深大寺城、江戸城、稲付城、成宗城。第二巻では渋谷城、高幡城、平山城、本郷城、松本城が紹介されます。城のラインナップを見てもわかる通り、城として建物が健在なのは合宿として遠出することになる長野県松本市の現存十二天守松本城と現皇居として一部の建物が残る江戸城だけ、残りは遺構が残っていればいい方な城址揃いです。まぁ東京なので自ずとそうなるのですが。あゆりを半ば強引に連れまわす美音の好みはお城ファンの中でも比較的コアな部類に属する、「遺構すらなくても大丈夫、むしろ何もなさが歴史を感じられて良いんだ派」です。わかるぞわかりすぎるぞ。

東京城址女子高生1巻より

「東京城址女子高生」1巻15ページより

この記事の筆者である私は以前は世田谷区在住渋谷勤務で史跡散策が趣味、その後八王子に住み、現在は神奈川県在住・・・ここで紹介されている城址は成宗城以外全部繰り返し行ったことがあるという、あれ?自分のための漫画かな?状態です。もう知っている、知りすぎている一帯に彼女たちが行くのでもう、気分は田辺先生で読んでいました。

あゆりと美音は好対照なキャラクターです。あゆりは彼氏の二股を疑いその不和につけこまれてクラスメートの女子に寝取られるわ、お母さんは面倒な性格していていいように八つ当たりされるわと世間の世知辛さに翻弄され、美音に教えられる世田谷城や深大寺城の悲劇的な歴史に自分の境遇を重ね合わせるところから、城址歩きに魅力を覚えはじめます。

一方、美音は好きな人は太田道灌くん。幼いころに祖母に教わった道灌公のエピソードにほれ込み史跡を巡るようになり、城址の魅力にとりつかれました。以後、城址歩きという趣味の他者からの理解されなさを受け入れてなお好きを貫こうと努力する、天然風にみえて非常に芯のある魅力的なキャラクターです。

城オタクの田辺先生も一緒に、城址散策部を作ろうというのが一巻。続く二巻では女子高生が部を創設するのにお約束のメンバー集めとそれに立ちはだかる堅物生徒会長橋本紀沙さんが登場、対立から和解が描かれ、そして待ちに待った新入部員の一年生紺野亜子ちゃん(天使)が加入。いよいよ城址散策部が本格稼働です。天使と書いて紺野亜子ちゃんが文字通り天使でですね・・・尊い。亜子ちゃんの前向きな姿勢を見て、自身のダメさを自覚するあゆりの姿に爆笑していました。

一巻のあゆりを取り巻く環境がネガティブなものが多く、あゆり自身も非常にあたりが強いキャラクターでもあるので好みが分かれるとは思います。世間の人間関係に疲れたおっさんが散歩にはまるのと同じ展開だと思えば良いような気もしますが、まぁ、否定的な意見もよく見かけます。しかし、二巻でツンでぼっちの生徒会長と亜子ちゃん(天使)が登場したことで関係性にバリエーションが出て、すっかりツッコミ役兼いじられ面白キャラとなったあゆり、常にゴゴゴゴゴと擬音を背負ってそうなラスボスキャラと化している美音、とキャラも立ち、城址歩きの魅力が前面に出てき始めることで、一気に面白くなりました。

個人的に渋谷城(渋谷金王八幡神社)は思い出深く、渋谷で働いているときは昼休みよく歩いて渋谷金王八幡神社に渋谷の喧騒から逃れて一息ついていたので、生徒会長の気持ちよくわかってぐっと来てました。思えば上京して東京で初めて行った城址だったかもしれないです。世田谷区民だったときは世田谷城址からそこそこ徒歩圏内だったのでよく行っていたし・・・また、八王子市民だったころは思いっきり京王線沿線で、亜子ちゃんが高幡不動の隣の隣の駅の平山城址公園が最寄駅と言っていた時は、「僕、そのさらに隣の隣の駅が最寄駅だったよ!」と読みながらツッコミいれてましたね・・・このように東京在住者で城址・史跡歩きが好きな人は確実にハマるツボがある作品だと思います。

二巻の最後で、行ったお城について発表しようという方向が見えてきて、次は城址に行くという体験から城址の歴史を調査することの楽しさが掘り下げられそうです。調査研究の楽しさは史跡めぐりの最大の楽しさだと思うので漫画にするのはなかなか骨が折れそうですが、その自分で史料を漁って知ること、わからないことが増えることの楽しさに本格的に踏み込んでくれるとうれしい。そして、現時点では軽んじられるポジションな田辺先生再評価の機運を感じますね。城址・史跡歩きの魅力をこれからどう描いていくのか、今後も期待したい作品です。

公式ツイッターでは補足でお城にまつわる小ネタなども投稿されています。

Kousyou

「Call of History - 歴史の呼び声 -」主宰者。世界史全般、主に中世英仏関係史や近世の欧州・日本の社会史に興味があります。

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