「中世ヨーロッパの都市世界 (世界史リブレット 23)」河原温 著

入門者向けに世界史上の様々なテーマについて80~90ページほどのコンパクトなサイズでまとめて読める、とてもありがたい山川出版社の世界史リブレットシリーズから、そのものずばりな中世ヨーロッパの都市について概観した本書は、とてもお勧めである。

特に最近だと中世ヨーロッパの都市について調べるニーズは創作に役立てたいという人が多いのではないかと思うが、本書はこのサイズで都市の成立から衰退といった歴史と、都市の暮らしや構造など全体像を描きつつ、例えばギルドの仕組みや公衆衛生といった細かいエピソードも網羅していて、かなり役に立つ。当然、細かい事例については専門書を当たることになると思うが、それら資料を読み解くうえで、基礎を申し分ないレベルに押さえてある本書を読んでいるかいないかだけでも随分違ってくると思う。

全体の構成としては、序論にあたる「都市イメージの再考」で近年のヨーロッパ都市史の研究動向が「都市のもつ多様性、多面性、重層性が明らかとなってきた」(3頁)こと、その上で「本書では中世ヨーロッパの都市とはどのような特質と機能をもつ組織体であったのか」(3頁)を近年の研究動向を踏まえつつ描くことが唱えられ、続く「1 中世都市の生成」で十一世紀までの都市の成立過程が概観され、「2 中世都市のコスモロジー」で中世の人々は都市にどのようなイメージを持っていたのかが描かれている。

その後、「3 中世の都市空間」で十一世紀から十三世紀の都市の発展期の展開とその中で成立した都市の領域や広場、建築物などの都市空間と人々の生活条件が具体的に解説される。

「4 中世都市生活の枠組みと人的絆」では都市民の生活単位となる家族、ギルドなどの職業団体、兄弟団などの信仰組織、大学や社会福祉施設、身分制度で周縁に置かれた人々など、日々の労働と暮らしについて整理されている。

最後の「5 中世末期の都市と社会」で、都市で行われていた祝祭と暦を中心とした生活リズム、そして十四世紀から十五世紀にかけて黒死病や度重なる戦争と地域ごとに異なる王権との関係などによって都市がどのように変容を遂げたか、近世以降の変化まで視野に入れつつ展望される。

よく中世は「暗黒時代」などと言われる。様々な理由があるが、一つには五世紀に西ローマ帝国の支配体制が崩壊し、ゲルマン人の移動と群雄割拠、そしてカール大帝の統一を挟んで、九~十一世紀のヴァイキングの侵攻と、血で血を洗う殺し合いが続く一方で、ローマ時代の技術や文明は失われ人々は食うや食わずの自給自足の生活を余儀なくされた・・・というイメージが大きいせいだが、本書を読むとそのイメージはすでに過去のものとなっていることがわかる。実際「暗黒時代」という言葉自体、現在は退けられて久しい。

西ローマ帝国の秩序が崩壊しても商業が消滅したわけではなく、メロヴィング朝時代(481~751年)でも『古代以来の地中海商業が存続し、マルセイユをはじめとする南ヨーロッパの港町では、東方の香料、パピルス、絹織物などの奢侈品が取引されていた。』(5頁)カール大帝時代(768~814年)には本格的な商品=貨幣流通政策が実施されて商業活動が進展する。この過程で都市が成立する。

『南ヨーロッパにみられる古代のキヴィタスの実質的存続、聖俗の領主の居住地(城砦や修道院など)を核としてその周辺に形成される商工業者の定住地の併存という地誌的二元的集落、そして領主の主導によりつくりだされていった剣瀬鬱型集落』(9頁)から初期の都市が誕生してくる。そしてヴァイキングやスラヴ人、そしてイスラーム勢力などの外敵に備えて都市が城壁で囲まれるようになり、法律や行政組織が整備され、大聖堂や領主の城が都市に登場して徐々にお馴染みの中世的な都市へと発展する、という、むしろ、「暗黒時代」というイメージで捉えられていた過程の中に、都市誕生の萌芽が見出されていることが見えてくる。

一方で、中世都市には授業でも習う「都市の空気は自由にする」という言葉から自由な個人のイメージがあるが、実際のところそうでもないこともまた本書を読むと理解できるだろう。人々の日常生活の単位はまず家族があり、家族・親族の紐帯とあわせて、身分制社会の中で職能ごとに相互扶助のためにギルドやツンフトなどと言われる職業集団、信仰を同じくする兄弟団や信心会などの宗教的共同体を作っていた。そうした集団から零れ落ちる非熟練労働者やハンセン病者、ユダヤ教徒、貧民などもまたいる。

しかし、確かに都市は自治的な体制を整えているし、「自由と自治」は中世都市の大きな特徴でもある。これは王権や領主との関係の中で形成されていた。その過程は闘争と駆け引きの歴史でもあるし、王権が弱体であった地域と、強力な王権を築いた地域でも都市の在り方は大きく変わってくる。

以上のような中世ヨーロッパの「都市のもつ多様性、多面性、重層性」が見事に整理されており、ページ数は非常に薄いが内容は非常に詰まった一冊であることは間違いない。

本書で紹介されている1304年にフィレンツェでドミニコ会士フラ・ジョルダーノ・ダ・リヴァルトが語ったという言葉が印象的であった。

『都市という言葉(civitas)は愛という言葉(caritas)と似た響きをもつ。なぜならばいずれにおいても人びとは一緒に居ることをめざすからである』(32頁)

中世ヨーロッパの人々はいかにして都市を築き、どのような日々を送ったのだろうか。奥深い「中世ヨーロッパの都市世界」を垣間見るための入り口としてぜひ読んでおきたい一冊だ。

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