『【ビジュアル版】世界の歴史 大年表(創元社)』定延由紀 他訳

出版元の創元社様よりご恵投いただきました。ありがとうございます。

その惹句の通り宇宙の誕生から現代まで、134のテーマに分けられてそれぞれの歴史が年表形式でまとめられた、大判で非常にボリュームある図鑑である。非常にキャッチーな図版と凝ったレイアウトがページをめくるたびに目に入ってきて本当に楽しい。

創元社の特集ページで詳しく見ることが出来る。

[特設サイト]【ビジュアル版】世界の歴史 大年表 - 創元社
134のテーマで読み解く、絵で読む世界史。独創的なレイアウトで図版や写真を豊富に盛り込んだ、「記憶に残る」世界史年表。

第1章「先史時代」紀元前3000年以前
先史時代/宇宙の物語/地球の生物/恐竜の時代/恐竜の絶滅/人類の起源/農業/金属の加工/町と都市/車輪の物語/文字

第2章「古代の世界」紀元前3000~紀元後500年
古代の世界/メソポタミア/遊びとゲーム/古代エジプト/古代の大型建造物/ギザの大スフィンクス/物語の物語/宝飾品(ジュエリー)/スポーツの物語/古代ギリシア/数学/民主主義の物語/ケルト人の台頭/アケメネス朝ペルシア帝国/イッソスの戦い/哲学の物語/彫刻の物語/初期の中国王朝/時の計測/ローマ帝国/古代ローマ人の技術/宗教/ポンペイの滅亡/娯楽と祝祭/古代インドの王朝/ローマ帝国の変容

第3章「中世の世界」500~1450年
中世の世界/中国の黄金時代/初期のイスラーム帝国/アメリカ大陸の帝国/ゲルマン人/中世ヨーロッパ/クレシーの戦い/ヴァイキング/十字軍/東南アジアの諸王国/アンコール・ワット/武士の台頭/城/古代の北アメリカ/太平洋の島々の人々/太平洋の島々への入植/アフリカの諸王国/モンゴル帝国/地図と地図製作/伝染病と病気の流行/武器と甲冑

第4章「大航海時代」1450~1750年
大航海時代/筆記の技術/船/ルネサンス/世界を探検する/インド航路/絵画の物語/宗教改革/スペイン語圏アメリカ/テノチティトランの陥落/オスマン帝国/天文学/大戦争/レパントの海戦/日本の江戸/植民地アメリカ/科学革命/アメリカの奴隷制度/ムガル帝国/中国の明朝と清朝/化学/舞踊の物語/海賊行為の黄金時代

第5章「革命の時代」1750~1914年
革命の時代/啓蒙思想/リスボン大地震/自然災害/音楽の物語/ロシア帝国/アメリカの誕生/デラウェア川を渡る/産業革命/オーストラリア先住民/オーストラリアの植民地化 /バスティーユ牢獄襲撃/フランス革命/医学/ナポレオン戦争/中南米諸国の独立/鉄道/ニュースを広める/エンジニアリング/アメリカの西部開拓/辺境の戦い/1848年の革命/生物学/大英帝国/南北戦争/アフリカの植民地化/テレコミュニケーション(遠距離通信)/写真/犯罪捜査/飛行機と航空機産業/参政権の獲得/物理学/自動車/大冒険/豪華客船タイタニック号の航海

第6章「現代の世界」1914年以降
現代の世界/第一次世界大戦/1920年代/1930年代/考古学/ソヴィエト連邦/高層ビルの物語/第二次世界大戦中のヨーロッパ/銃後の戦い/ホロコースト/ノルマンディー上陸作戦/太平洋戦争/インドの独立/アフリカの独立/スパイの物語/中東戦争/家庭用電気製品/朝鮮戦争/ベトナム戦争/1960年代/独立後のアフリカ/冷戦/宇宙開発競争/アポロ発射/キューバ・ミサイル危機/アメリカ公民権運動/ファッション/宇宙探検/急成長する国々/コンピュータ/フェミニズム/インターネット/若者文化/ロボット工学の物語

本書は翻訳本で、原著は2018年に米国のPenguin Random House社から出版された”Timelins of Everything”という書籍である。米国amazon.comの書籍紹介によれば、スミソニアン(スミソニアン博物館の出版・雑誌部門)の協力で、イラスト付きリファレンスのパブリッシャーであるDK社が製作したものである。

DK社のページによると“With timelines on a diverse range of subjects, Timelines of Everything is the ultimate guide to history for kids.”(さまざまなテーマの年表があるTimelines of Everythingは、子供たち向けの究極の歴史ガイドです)と、子供向けの歴史年表集という位置づけになっている。8歳以上向けというコメントもある。

確かに家の本棚にこれが並んでいたら自分が子供の頃を考えると夢中で読んでしまっていただろう。デザイン的に本を縦に斜めにとぐるぐる動かしながら、あるいは頭を横にしたり、自分が動いたりすることになるので、全身を使った読書が楽しめるのも大人はもちろん子供にとって特に楽しいと思う。

この見せ方の巧さや、各項目の要点のまとめ方などはとても参考になる。ある程度世界史に興味を持っている大人でも本書に盛り込まれたすべてのテーマを網羅する人など一握りだろうから、知っている項目についてはふむふむこういうまとめ方をしているのかと思い、知らないことについては、各テーマの重要項目が端的にまとめられているので、ここから詳しく調べてみようという新たな探究の入り口になる。これは入門的な図鑑の最大の強みだ。

また、世界の歴史がまとまっているので、もちろん日本についても言及がある。海外の、ある程度網羅性が高い子供向けの図鑑で日本の歴史はどのようにまとめられているのか?というのは歴史ファンなら興味を持つところだろう。

「武士の台頭」というページを見てみるとこんな感じだ。

『【ビジュアル版】世界の歴史 大年表』110~111頁

『【ビジュアル版】世界の歴史 大年表』110~111頁

鎌倉幕府・室町幕府の成立や神風、本能寺の変といったトピックに混ざって「忍者」があるのが、やはり注目ポイントだ。忍者!?日本人研究者が、小学生ぐらいの子供向けに「武士の台頭」の年表作るとして「忍者」を入れることはまず思いもよらないのではないだろうか。また、天皇=将軍=大名=武士というシンプルな階層構造や、「武士道」の強調なども、まあ現在はこのように説明されることはない。

少なくとも西洋史、オリエント史、近現代史や各テーマ別の技術史・科学史・文化史などはここまで特徴的ではなく――年表形式ゆえに単線的な歴史観となることや、西洋史に若干の偏りが生じるのはやむを得ないところだが――そこそこ手堅いまとめ方なので、なるほど、ここにスタンダードな理解とされる歴史知識の谷があるのだなということがわかって面白かった。英語版wikipediaの日本史関連の記事を読んでいても思うが、日本史研究の近年の成果、もっと海外にも広めたいよね・・・

わかりやすくまとめることで生じる不正確さとどこで折り合いをつけるのか、スタンダードな理解とされる水準をどこに置くか、は学校教科書から一般向けの書籍や雑誌・ウェブ記事まで付きまとう大きな問題なので、これがヴィジュアルを重視した子供向け歴史ガイドとして作られた本書の魅力を大きく減じるわけではないと思う。むしろわかりやすいぐらい特徴的なページなので、逆にここから子供と歴史を語らうきっかけになるかもしれない。あるいはや海外から日本の歴史はどう見られているかといった比較を語ってみても面白いかもしれない。

本書は、ページを開くごとにより知りたいと言う欲求が止まらなくなる、歴史への興味の入り口として魅力的な本だ。また、「歴史」をどう見せるかの工夫に溢れており、特にデザインやプレゼンの参考として非常に有用だと思う。子供と一緒に読む、全く知らない歴史を知る入り口にするという点で本棚に置いておきたい本の一つと言えそうだ。

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