スポンサーリンク
歴史的文書

「トライバル・ハイデジ」

スポンサーリンク

「トライバル・ハイデジ(Tribal Hidage)」は七世紀から九世紀にかけての時期に作成されたブリテン島のハンバー川以南の34の部族・王国の名とハイド数が割り当てられた文書。不明な点が多く、作成時期や作成場所、目的についても議論があるが、七世紀後半から八世紀前半頃のマーシア王国で貢租や軍役の算定をするために作られたとみられている。アングロ・サクソン時代のイングランドの歴史を研究する上で最も重要な史料の一つ。

スポンサーリンク

「トライバル・ハイデジ(Tribal Hidage)」

現存する最古かつ完全な「トライバル・ハイデジ」史料は十一世紀頃に他の複数の文書とあわせて編纂された写本”Harley MS 3271″(大英図書館収蔵)に収録されたアングロ・サクソン語で書かれた文書で、他に十三世紀から十五世紀にかけてラテン語で部分訳された史料も複数存在している。ブリテン島のハンバー川以南の34の部族・王国の名と、それぞれにハイド(Hide)の合計が割り当てられており、1897年、歴史家のフレデリック・ウィリアム・メイトランドはこれらを総称して「トライバル・ハイデジ(Tribal Hidage)」と名付けた(1戸上一(1960)「Tribal Hidage考」(『社会経済史学 26 (3)』314頁)。

ハイド(Hide)は古英語で世帯を意味する単語に由来し、税や軍役、労役等の義務を算出するための単位として使われるようになった言葉で、ハイドの数がそれぞれの勢力の規模を表している(2グリフィス、デイヴィッド(2015)「第三章 交換、交易、都市化」(デイヴィス、ウェンディ(2015)『オックスフォード ブリテン諸島の歴史(3) ヴァイキングからノルマン人へ』慶應義塾大学出版会、129頁))。七世紀後半のウェセックス王イネの制定した法ではハイド数に応じた賠償金の額が定められるなど、アングロ・サクソン社会を構成する重要な尺度となっていた。

「トライバル・ハイデジ」の内訳としては、マーシアの中心地域に30,000ハイド、現在のヨークシャー州南部にあったエルメット王国やリンカンシャー、ダービーシャーにあったとみられる有力部族などマーシア王国周辺の五つの主要な集団に600〜7,000ハイド、その後ミドランズ地域の群小集団が続き、最後にイースト・アングリア王国(30,000ハイド)、エセックス王国(7,000ハイド)、ケント王国(15,000ハイド)、サセックス王国(7,000ハイド)、ウェセックス王国(100,000ハイド)の五つのアングロ・サクソン王国が並んでいる(3内川勇太(2015)「訳注 第三章 [2]」(デイヴィス、ウェンディ(2015)『オックスフォード ブリテン諸島の歴史(3) ヴァイキングからノルマン人へ』慶應義塾大学出版会、338頁)/戸上一(1960)「Tribal Hidage考」(『社会経済史学 26 (3)』316頁、321-322頁))。

「トライバル・ハイデジ」の作成時期と作成場所、作成目的などについて研究者の間で議論があり、七世紀から九世紀にかけてのアングロ・サクソン諸王国が分立していた時期にマーシア王国マーシア王国と関係が深い地域に対し貢租や軍役を徴収するための算定基準をまとめる目的で作られたとするのが主流の説となっている(4内川勇太(2015)「訳注 第三章 [2]」(デイヴィス、ウェンディ(2015)『オックスフォード ブリテン諸島の歴史(3) ヴァイキングからノルマン人へ』慶應義塾大学出版会、338頁)。より具体的な時期についてはウルフヘレ王時代(在位658-675年)やエセルレッド1世時代(在位675-704年)の七世紀後半とする説が多いが、八世紀後半のオファ王時代(在位757-796年)や八世紀前半のエセルバルド王時代(在位716-757年)とする説もある(5戸上一(1960)326-327頁/Kessler, Peter & Dawson, Edward (2008).”The Mercian Tribal Hidage“. The History Files.)。また、マーシア王国ではなくノーサンブリア地方でノーサンブリアのエドウィン王時代(在位616/617-633年)に作られたとする説もあるが少数意見にとどまる(6Kessler & Dawson (2008))。

「トライバル・ハイデジ(Tribal Hidage)」(大英図書館収蔵、MS Harley 3271, f. 6v)

「トライバル・ハイデジ(Tribal Hidage)」(大英図書館収蔵、MS Harley 3271, f. 6v)
The oldest surviving witness of the Tribal Hidage: England, 1st half of the 11th century (London, British Library, MS Harley 3271, f. 6v).
Credit: British Library, Public Domain.

参考文献

脚注

タイトルとURLをコピーしました