国際的な研究チームが最新の水中ロボット技術を使って15世紀後半から16世紀初めにかけてバルト海で沈んだ、無傷に近い状態で保存されている難破船の船体を撮影した。研究チームの中心となったサウサンプトン大学が詳細を発表した。
この難破船は、2009年、スウェーデン海事局のソナー調査で存在が確認されていたが調査が行われていなかったもので、2019年に入ってサウサンプトン大学海洋考古学センター(CMA)と水中調査の専門機関であるMMT、ディープ・シー・プロダクションズ、スウェーデンのセーデルトルン大学海洋考古学研究所(MARIS)などによる合同チームが編成され調査が開始された。
調査にあたったMMTの海洋考古学者でありサウサンプトン大学の客員研究員でもある深海考古学の専門家ロドリゴ・パチェコ=ルイス博士によれば、「この船はクリストファー・コロンブスやレオナルド・ダ・ヴィンチと同時代のものだが、バルト海の冷たい汽水のおかげで、500年間驚くべきレベルの保存状態を示している」という。
ロドリゴ・パチェコ=ルイス博士による船体動画
「まるで昨日沈んだかのようだ――マストは元の位置にあり、船体は無傷。メインマストに立てかけられている乗組員を船から船へ送り届けるために使われるボートがまだメインデッキにあるのは信じられないほど珍しい発見だ。本当に驚くべき光景である」と博士はいう。
考古学的調査により、この船が沈没したのは15世紀後半から16世紀前半にかけての時期だと考えられている。これはスカンジナビア諸国の近代化の道筋を定める上で非常に重要な時期である、デンマーク=ノルウェー同君連合およびリューベックとスウェーデン王国が戦った北方七年戦争(1563~1570)の第一次オーランド海戦(1564)で沈んだスウェーデンの軍船マーズや、1545年に炎上したイングランド王ヘンリ8世の旗艦メアリー・ローズ、スウェーデン王グスタフ2世アドルフによって建造されたものの1628年の初航海で沈んだ戦列艦ヴァーサより古い。この難破船の年代は発見の重要性を強調している。
北方七年戦争(1563~1570)時代より古く保存状態の良い船が見つかるのはまれで、戦闘で爆発した軍船マーズの散在した残骸と違い、今回新たに発見された難破船は、キールから上甲板まで船体構造が保存されており、すべてのマストといくつかの直立した装置がそのまま残っている。はっきりと見えるのは、第一斜檣と初歩的な装飾の欄間の船尾、そして木製の錨巻き上げ機と汚水ポンプのような他のめったに見られない要素だ。当時の人間関係が緊張していた証拠に、いまだにガンデッキに設置されている回転式銃がある。
まだ船名はわかっておらず、調査チームは「未知の船」を意味する” okänt skepp”と名付けた。
パチェコ=ルイス博士は沈没原因について、船尾の損傷が攻撃によるものではなく海水中で金属が腐食し、木材が剥がれたことが原因であると考えている。乗組員が誰で、なぜ船が沈没したのかについて「一番難しい部分だと思うし、サンプルが増えるまでわからない。それは、放棄されたか、乗組員が病気になったか、何かを捕まえて死んだか、ただ浮いていたかもしれない。我々は、沈没の状況や正確な日付を知るためにサンプリングし、追跡調査を進める」と語っている。
「我々がこれらの船について知っていることは、歴史的に言えば、当時の図面や模型だ。船を作るのに使われた木の模型がいくつかある。しかし、ここに船全体がある」
研究チームは今後木板を回収して使われた木材の年代測定を行う予定。