オーストリア科学アカデミー(英語”Austrian Academy of Sciences”,ドイツ語” Österreichische Akademie der Wissenschaften”)の調査でオーストリアのメルク修道院の図書館から、中世ドイツのエロティックな詩「ヴァギナ・モノローグ”vagina monologue”」として知られる” Der Rosendorn”(薔薇の棘)の十三世紀頃のものと見られる断片が見つかった。オーストリア科学アカデミーのリリース”EROTIC POEM FROM THE MIDDLE AGES“他、The Guardian紙などが報じている。
“Der Rosendorn”は処女の女性と擬人化された彼女の女性器との対話と冒険を描いたドイツ中世詩で、両者は男性が女性に求めるものは何かということについて議論し、女性は自身の外見の美しさだと主張するが、女性器はそれを否定し喜びを与える自身によるものだと主張し、両者は真実を見つけるために別れて旅に出るがどちらも成功せず、紆余曲折を経て肉体的に再会を果たすことになる、という物語だ。十五世紀のものとされる二つの写本「ドレスデン写本」「カールスルーエ写本」から、中世末期に花開いた解放的な文学の一形態だと考えられていた。オーストリア科学アカデミー中世研究所のクリスティーネ・グラスナー” Christine Glaßner”氏によれば、調査チームがメルク修道院図書館の蔵書を調査した際、これまで知られていなかった22センチ×1.5センチの細長い羊皮紙を発見した。羊皮紙は後のラテン語書籍の装丁に再利用されており、判読が困難だったがシーゲン大学のナタナエル・ブッシュ”Nathanael Busch”氏によって“Der Rosendorn”の約60行の詩が書かれていることが分かった。この羊皮紙は1300年頃に書かれたのものであることも判明した。
発見したグラスナー氏は、「文章は一見ばかげているように見えるが、本質的には信じられないほど巧妙な物語だ。なぜなら人と性が区別できないことを示しているから」と語った。
女性から分離して感情を持つ女性器というモティーフは宮廷風ロマンスへの風刺としてドイツやフランスの中世文学に見られ、“Der Rosendorn”はその最初期のものと考えられている。これまで、ドイツ語圏の世界では、15世紀の都市文化のように中世が終わるまで、性に関するこのような解放性は現れないと考えられていたが、今回の発見で一気に二世紀ほど誕生時期が遡ることになり、中世文学史上の大きな発見となった。
発見されたメルク修道院はオーストリアのニーダーエスターライヒ州にある世界遺産「ヴァッハウ渓谷の文化的景観」の代表的建築物で、1089年、オーストリア辺境伯レオポルド2世によって建てられた世界的に著名なベネディクト会修道院である。ウンベルト・エーコ著「薔薇の名前」の主人公メルクのアドソゆかりの地とも言われ、中世の書籍が大量に納められた図書室が名高い。