古代ローマ帝国時代の遺跡が多数残り世界遺産にも登録されているトルコ西部カラジャスの古代都市アフロディシアスで発見されたディオクレティアヌス帝(在位284年~305年)による市場価格の上限を定めた法令「最高価格令」の修復作業が進んでいる。
アフロディシアスは女神アフロディーテに由来する都市で、紀元前2世紀から後8世紀まで栄え、近隣に大理石の採石場があり、多くの彫刻が市内に残されているほか、アフロディーテ神殿や競技場、大浴場など多くの建造物が残る。
アフロディシアス遺跡を29年に渡って調査してきたオックスフォード大学のローランド・R・R・スミス教授が率いる調査チームによって、市民のバシリカ正面の破壊されたファサードに刻まれた1400品目に渡る最高価格令の文面の一部が発見されていた。スミス教授によると今年は「最高価格令」に関するプロジェクトの五か年計画の二年目にあたり、エキサイティングなシーズンになるという。
スミス教授によると、ディオクレティアヌス帝は当時発生していた高インフレを抑制するため、原材料や製品・サービスに対して、1400項目の上限価格令を出した。
「これは301年にディオクレティアヌス帝によって書かれたもので、我々の最初の目標は、このファサードを再建し、建物の屋内エリアを開放して、訪問者がこのファサードを見学できるようにすることだ。この勅令の興味深い特徴の一つは、ローマ帝国全体で使用された1,400の製品とサービス品目すべての価格が含まれていることである。例えば、アレキサンドリアからローマまでの交通費、ダチョウの値段、ウサギの毛皮の値段などがこの勅令に書かれている。このプロジェクトのおかげで、ディオクレティアヌス帝の命令が世界で初めて展示されることになった」とスミス教授は語る。
「その最も重要な特徴は、非常に細部に注意が払われた技術、調査、見積もりによって既存の構造に刻まれていることだ。これを見れば、人々がどのように働いたかを理解できる」という。価格の上限を定めた法令は他の都市にもみられるが、今回発見されたアフロディシアスの断片の数は、他の古代都市よりもはるかに多かった。
「この勅令はラテン語またはギリシア語で口語に応じて発布された。アフロディシアスに見られる例はギリシア語だ。我々はラテン語、英語、トルコ語で本文全体を発表するつもりだ。当時の社会的・経済的生活について考えてみよう」とスミス教授。
近々ファサードと最高価格令の文面が修復され一般公開される予定。
ディオクレティアヌス帝は軍人皇帝時代の混乱『三世紀の危機』を収拾して帝国を一時安定化させた皇帝。広大な帝国を統治するため、286年にマクシミアヌスを副帝に任命して西方帝国の統治を任せ、293年からは東西皇帝と東西副帝による帝国四分割統治体制「テトラルキア」を開始した。自らを神になぞらえて皇帝崇拝を強制するなど皇帝の権威を確立して後にドミナートゥス(皇帝専制)制と呼ばれる体制を創始した。キリスト教の弾圧「大迫害」を行ったことでも知られる。
ディオクレティアヌスの市場価格の上限を定めた法令はアンティオキアまたはアレクサンドリアで出され、「最高価格令(ラテン語:Edictum de Pretiis Rerum Venalium)」の名で知られる。これまで断片しか見つかっていなかったが、その効果については研究者たちの間でも疑問が呈されており、法令はディオクレティアヌス帝が支配下東方に限られ、かつその治世が終わる305年までには事実上廃止されたと考えられている、(参照1、参照2)