イスラエル北部のシナゴーグで「ダニエル書の獣」「出エジプト」描いたモザイク発見

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イスラエル北部、ガリラヤ湖の北に位置するフコック(Huqoq)の古代集落跡にある五世紀頃のシナゴーグを調査していたノースカロライナ大学チャペル・ヒル校の研究者と学生のチームが、シナゴーグの北側通路から、聖書の「ダニエル書」「出エジプト記」の場面を描いたモザイクを発見した。

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発見された「ダニエル書」「出エジプト記」のモザイク

今回発見された二種類のモザイクの最初のものは、ダニエル書の第七章にある四頭の獣のうち、第二の獣である三本の肋骨をくわえた熊と第四の獣である鉄の歯を持つ獣が描かれている。第一の獣と第四の獣のモザイクは見つかっていない。

ダニエル書7章2-8より
『ある夜、わたしは幻を見た。見よ、天の四方から風が起こって、大海を波立たせた。すると、その海から四頭の大きな獣が現れた。それぞれ形が異なり、第一のものは獅子のようであったが、鷲の翼が生えていた。見ていると、翼は引き抜かれ、地面から起き上がらされて人間のようにその足で立ち、人間の心が与えられた。第二の獣は熊のようで、横ざまに寝て、三本の肋骨を口にくわえていた。これに向かって、「立て、多くの肉を食らえ」という声がした。次に見たのはまた別の獣で、豹のようであった。背には鳥の翼が四つあり、頭も四つあって、権力がこの獣に与えられた。この夜の幻で更に続けて見たものは、第四の獣で、ものすごく、恐ろしく、非常に強く、巨大な鉄の歯を持ち、食らい、かみ砕き、残りを足で踏みにじった。他の獣と異なって、これには十本の小さな角があった。その角を眺めていると、もう一本の小さな角が生えてきて、先の角のうち三本はそのために引き抜かれてしまった。この小さな角には人間のように目があり、また、口もあって尊大なことを語っていた。』(『小型聖書 – 新共同訳』1392頁)

発見された「出エジプト記」エリムについて描かれたモザイク

発見された「出エジプト記」エリムについて描かれたモザイク, © Jim Haberman, Huqoq Excavation Project.

次に「出エジプト記」の場面を描いたモザイクで描かれているのは「出エジプト記」15章27、16章1で描かれたエリム(Elim)での様子である。エリムはモーゼに率いられてエジプトを出たイスラエル人が水もないまま荒野をさまよった果てにたどり着いた十二の泉があったオアシスである。

モザイクは三つの水平の場面に分割され、腰布を身につけた男性農業労働者が、収穫されたナツメヤシの束を他の男性が持っていたロープに滑り落としている様子が描かれている。中央の記録には、井戸とナツメヤシが交互に並んでいる様子が描かれている。また、左側の記録には、水筒を持ち短いチュニックを着た男性が、矢狭間が設けられた塔に囲まれた都市のアーチ形の門に入っている様子が描かれ、門の上には「そして、彼らはエリムに来た」と刻まれているという。

発掘調査チームを率いたカロライナ大学ジョディ・マグネス(Jodi Magness)教授は、興味深い点として、以下のように述べている。

『「ダニエル書」のモザイク画はこの集会の終末論的な期待を示している。「エリム」のモザイクは、一般的にイスラエル人の出エジプト伝説の中ではかなり些細なエピソードであると考えられているので、何故ここのユダヤ教徒にとって重要だったのかという疑問を提起する』

保存のためにこれらのモザイクは遺跡から取り外され、発掘地は埋め戻されている。発見されたモザイクの詳細な写真等は、今後、論文とあわせて発表される予定。

過去にフコック遺跡で発見されたモザイク

フコック遺跡では2010年から九年に渡って発掘調査が続けられており、2012年に最初のモザイクが発見されて以降、2014年から2017年の間に、ノアの箱舟、紅海、ヨナと魚、バベルの塔などのモザイクが発見された。

2018年に当地で発見された、剣を持った兵士たちを従えた司令官の男と司祭の男が描かれたモザイクは、東方遠征に赴くアレクサンドロス大王を描いたものか、マカバイ戦争(前167~150年)の一場面を描いたものかで研究者によって説が分かれている。

フコック遺跡発掘の意義

西暦70年にローマ軍によってエルサレム第二神殿が破壊され、ユダヤ教徒への迫害と離散の時代を迎えて以降、ユダヤ人社会に関する史料はユダヤ人社会・宗教指導者であるラビによって書かれた文献(ラビ文献)しかない。

『ラビ文献の全容は膨大で多様だが、ユダヤ人社会においてはエリート層であるラビの視点を反映しており、それ以外のグループの文献は存在していない。また、初期のキリスト教文献ではユダヤ人とユダヤ教徒に敵対的である。考古学は4世紀から6世紀の間のユダヤ教の側面に光を当てることでこのギャップを埋めている。我々の発見は、70年のエルサレム第二神殿の破壊の後も、ユダヤ教が多様でダイナミックであり続けたことを示している』とマグネス博士は今回の発見の意義について語っている。

2020年夏に発掘調査が再開される予定。

参考文献・リンク

Uncovered 1,600-year-old Jewish art brings more of an unknown culture to light(ノースカロライナ大学チャペル・ヒル校プレスリリース)
1,600-year-old biblical mosaic discovered in Israel, sheds light on ancient Judaism(FOX NEWS)
Teeming with riddles, Israel’s most beautiful mosaic reveals ancient liberal Judaism(Haaretz)
・『小型聖書 – 新共同訳』(日本聖書協会,1988年)
・市川裕著『ユダヤ教の歴史 (宗教の世界史) 』(山川出版社,2009年)